いい人」を演じなくても人と上手に付き合える #6

自分より他人の都合を優先させてしまう、損な役割をいつも引き受けてしまう……。人間関係の距離感が苦手なあなたに、脳科学者・茂木健一郎さんが本音でアドバイスします。
話題本『「いい人」をやめる脳の習慣』を一部公開!(毎週火更新)

リスク分散のための
「毛づくろいのポートフォリオ」

本当なら意気投合した気の合う人ばかりと付き合いたいものですが、世の中では自分と気の合わない人とも工夫して付き合っていかなければなりません。
職場の同僚、ご近所関係、公園のママ友……。たまたま偶然に巡り合った人と、毎日の多くの時間を過ごさなければならない場合もあり得るのです。

「いい人」というのは、こんな人間関係において、上手に距離を取ることが苦手です。気の合わない人とも、気の合う人と同じような「いい顔」で接するため、人間関係の板ばさみになったり、「都合のいい人」だと思われたり、利用されてしまうわけです。
上手な人付き合いに、秘訣のようなものはないのでしょうか。
このような人付き合いの「生存戦略」として、私はよく「毛づくろいのポートフォリオ」という話をさせていただきます。

イギリスの人類学者で、オックスフォード大学の認知・進化人類学研究所の所長であるロビン・ダンバー教授は、「ダンバー数の定式化」というとても興味深い研究をしました。
これがどんな研究かというと、サルの脳の大きさと、毛づくろいをする仲間の数がきれいに比例しているというものです。
サルがお互いに毛づくろいをするという行為は、単に体毛の間の虫を採り合う助け合いの行為を超えて、仲間との絆を深めるために重要な行為とされています。そして、人間にとってもそのような「毛づくろいに代わる行為」は必要なのだとダンバー教授は説いています。

では、人間にとっての毛づくろいとはいったい何でしょうか。
それはコミュニケーションです。
たとえば営業パーソンが得意先にお邪魔して、顧客担当者のお子さんの成長ぶりなど、ビジネスと直接関係ないことを雑談するのがそうです。
相手と定期的に接触して、プラスの言葉を交わし合うこと、それが人間の毛づくろい、つまりコミュニケーションなのです。この行為を続けることにより、お互いの距離が、つかず離れず、いい感じに結びつくというわけです。

研究の結果によると、人間はおよそ150人と毛づくろいができる脳の容量を持っているといわれています。このおよそ150人という数字が、ひとりの人間が人間関係において良好なバランスに適正な規模なのだということです。
こうしたダンバー教授の研究結果を私なりに解釈し、新たに皆さんにお伝えしたいのは、この150人の内訳を「自分の気の合う人」だけで固めないほうがいいということです。
たとえば職場でも、自分の好きな上司や仲間たちばかりで毛づくろいをしていたとすれば、上手な人間関係を営むうえでリスクの高いやり方だといえます。

先ほど「八方美人」についてお話ししましたが、脳科学的にみても、組織の中では全方位外交でいったほうが生存の可能性が高まるということです。
これはもちろん、派閥間の出世戦略のことばかりを言っているのではありません。 社会という組織と個人の関係を考えたとき、自分と気が合う人だけの情報共有では、どうしても偏った情報だけで生き抜いていくことになります。
特定の考え方しか知らないということは、自分の生き方を特定の意見に従って生きることにつながります。

「うちの会社は常務の下についていれば将来安泰」
「創業年月の長い大企業に勤めていれば潰れることはない」

たとえばこうした「特定の考え方」に従って生きることは、長期的に見ると、生きていくうえでかなりのリスクが生まれます。
人間関係を投資などマネー分野の考えに当てはめるなら、これは「生き方のポートフォリオ」を作成するということになるでしょう。

ポートフォリオとはもともとは平たい書類ケースを指す言葉でしたが、金融の世界で投資のリスクを低減させるため、さまざまな方向に投資先を分散させること、その組み合わせのことを指します。
周囲でいつも飛び交っているものとは真逆の情報、さらには思いもよらない別次元の情報など、さまざまな情報を自分の中にストックして、将来のリスクを分散させておくことが必要なのです。

慣れないうちは難しいとは思いますが、普段から自分とは考え方や行動の範囲が異なる人たちと触れ合う機会をつくって、情報交流をはかっておくことが必要だと思います

以前の日本社会では、たとえばお風呂屋さんなどでお互いに知らない男性同士が時事問題を語り合ったり、将棋を指しながら、世の中のあれこれについて語り合ったりしたものです。女性であれば、髪結いのお店などがそうした知らない人との毛づくろいの場所になっていました。
そこには学校の先生もいれば、魚屋さんの大将もいました。それぞれ異なった世界に生きる人たちが自分の経験を持ち寄って、独自の価値観を養っていったのです。

こんな「毛づくろいのポートフォリオ」をしておくことで、いろいろな気づきや発見が起こります。そしてその結果として、「社会とはそもそもこういうものだ」「人とはこうあらねばならない」などという、凝り固まった「いい人の価値観」に振り回されることがなくなるのです。

世の中にはたくさんの価値観があり、自分と同じ人間などは誰ひとりいませんが、たくさんの価値観に気づき、それを受け入れられる懐の広い人がいます。そんな人こそが「人付き合いの達人」と呼ばれるべき人でしょう。

その好例が、将来の総理大臣候補と注目され、現在は自民党農林部会長を務めておられる小泉進次郎さんです。
小泉さんは演説や討論会、集会などで瞬時にして聴衆の心を鷲づかみにしてしまう言葉の力を持っています。
小泉さんは、相手との心の距離を一瞬にして接近させるために、最初の「つかみ」を大事にしているといい、雑誌でこのようなことをおっしゃっています。

「つかみが上手くできたときと、そうじゃないときで、演説の全体が変わる。最初が上手く、すっと入れると、そのあと最後まで聴衆の皆さんに飽きられないように言いたいことを伝えられるような空気ができる。その空気を作れるかどうかというのは演説の良し悪しに最大の影響を与えると言ってもいい」

このように、相手との心の距離を接近させる「つかみ」を持っていれば、「いい人」を演じなくても人と上手に付き合えるのです

ユーモアセンスに磨きをかけよう!

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茂木健一郎 「いい人」をやめる脳の習慣

茂木健一郎

「いい人」をやめると、脳がブルブル動き出す! 他人の目に意識を向けず、自分のために脳を働かせれば生きるのが驚くほどラクになる。 ムダな我慢をあっさり捨てて、自分の人生を充実して生きるための茂木式・ポジティブ人生操縦法!

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ogugel |茂木健一郎 @kenichiromogi |茂木健一郎 「いい人」をやめる脳の習慣 なるほど。。。 https://t.co/ztQvIW2kl0 11ヶ月前 replyretweetfavorite