九螺ささら「きえもの」

九螺ささら「きえもの」【象のステーキ】

象の頭や脚やもちろん耳もある。鼻はビニールホースのようだ。
こっそり、二枚の耳を取って逃げた。
――電子雑誌「yomyom」に連載中の人気連載を出張公開!

「食べられる」「食べられない」と選別しこの世は食べられないものでいっぱい



 中学生くらいからわたしは、夢の中でいつも象のステーキを食べていた。

 味は、灰色のゴムそのものだった。

 夢の外では高校生になり、大学生になり、製薬会社に入り社会人になった。

 中学生から夢の中で象のステーキを食べている特技を買われて、悪夢を見つづけてしまう人たちに象のステーキの夢を見せる薬の開発を任されたのだ。

「多分、象の耳の干物が効くんだよ」

 同僚の畠山さんが耳打ちしてくる。

「ほら、熊の掌が漢方薬になるみたいに」


 わたしは夢の中の食堂で初めて、辺りを見回す、ということをした。

 厨房に入ると、誰もいない。

 案の定、象の頭や脚やもちろん耳もある。鼻はビニールホースのようだ。

 こっそり、二枚の耳を取って逃げた。

 そして、地平線の向こうまで逃げた。


 悪夢治療薬は、爆発的に売れた。

 わたしが象のステーキを食べていると、食堂はぐんぐん膨張する。

 わたしが食べ終える頃には一億人くらいが同じ食堂で象のステーキを食べている。

 夢の中の象が食べられまくり絶滅し、夢から現実に象の密猟に出る者が続出し、現実の象も絶滅した。

 夢の中の食堂は閉店した。

 わたしは悪夢にうなされ始めた。

 悪夢とは、現実の再生だった。


 現象は象の現れファントムはエレファントが生んだ幻


この続きは有料会員登録をすると
読むことができます。
cakes会員の方はここからログイン

1週間無料のお試し購読する

cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。

人気の連載

おすすめ記事

歌人・九螺ささら「きえもの」一挙15篇収録。あらゆるエンタメを自由に楽しむ電子の文芸誌、毎奇数月第3金曜に配信!

yom yom vol.52(2018年10月号)[雑誌]

三宅陽一郎,金子竣,知念実希人,青崎有吾,千街晶之,飯豊まりえ,九螺ささら,恒川光太郎,米原幸佑,辻村深月,乾緑郎,青柳碧人,垣谷美雨,中山七里,門井慶喜,武田綾乃,宮木あや子,最果タヒ,ふみふみこ,小林エリコ,新納翔,カレー沢薫,トミヤマユキコ,手塚マキ,柚木麻子,吉川トリコ,はるな檸檬,新井久幸
新潮社
2018-09-21

この連載について

初回を読む
九螺ささら「きえもの」

九螺ささら /新潮社yom yom編集部

初の著書『神様の住所』がBunkamuraドゥマゴ文学賞を受賞した歌人・九螺ささらによる、短歌と散文が響き合う不思議な読み物。電子雑誌「yomyom」に連載中の人気連載を出張公開!

この連載の人気記事

関連記事

関連キーワード

コメント

Tweetがありません