「食べられる」「食べられない」と選別しこの世は食べられないものでいっぱい
中学生くらいからわたしは、夢の中でいつも象のステーキを食べていた。
味は、灰色のゴムそのものだった。
夢の外では高校生になり、大学生になり、製薬会社に入り社会人になった。
中学生から夢の中で象のステーキを食べている特技を買われて、悪夢を見つづけてしまう人たちに象のステーキの夢を見せる薬の開発を任されたのだ。
「多分、象の耳の干物が効くんだよ」
同僚の畠山さんが耳打ちしてくる。
「ほら、熊の掌が漢方薬になるみたいに」
わたしは夢の中の食堂で初めて、辺りを見回す、ということをした。
厨房に入ると、誰もいない。
案の定、象の頭や脚やもちろん耳もある。鼻はビニールホースのようだ。
こっそり、二枚の耳を取って逃げた。
そして、地平線の向こうまで逃げた。
悪夢治療薬は、爆発的に売れた。
わたしが象のステーキを食べていると、食堂はぐんぐん膨張する。
わたしが食べ終える頃には一億人くらいが同じ食堂で象のステーキを食べている。
夢の中の象が食べられまくり絶滅し、夢から現実に象の密猟に出る者が続出し、現実の象も絶滅した。
夢の中の食堂は閉店した。
わたしは悪夢にうなされ始めた。
悪夢とは、現実の再生だった。
現象は象の現れファントムはエレファントが生んだ幻
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