柳井政和「レトロゲームファクトリー」

柳井政和「レトロゲームファクトリー」第42回

レトロゲームを最新機用に移植する会社「レトロゲームファクトリー」。社長の灰江田直樹とプログラマーの白野高義(コーギー)は、ファミコン時代の名作「UGOコレクション」全十本の移植という大きな依頼を受ける。ただ、実現には大きな障害があった。それは最後のゲーム「Aホークツイン」の権利のみを買い取った開発者の赤瀬裕吾が行方不明なこと。二人が必死に見つけ出した赤瀬は、移植許可の交換条件に「完璧なAホークツイン」の復元を提示した。ライバルの大手グリムギルド社もプロジェクトに名乗りを挙げ、勝負はプレゼン対決へともつれこむ。
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「森下だ。赤瀬くん、きみは驚いているだろう。きみを説得する会合が開かれると聞いてね。なにかビデオレターを欲しいと言われたんだ。
 きみはいまでもAホークツインの再販を拒み続けているそうだね。そろそろ、その封印を解いてもよいのではないか。そして、きみが望んでいた形でリリースするべきではないか。
 あの頃、俺は若かった。初めて一つの会社を率いるということで気負っていた。自分の経営手腕を試してみたいという意欲にあふれていた。しかし、業界のことを知らなすぎた。そのことに謙虚になるには時間が必要だった。
 俺はいまでも、きみに対して罪悪感を持っている。人生最大の失敗だと思っている。俺が言うことではないかもしれないが、メッセージを伝えておきたい。
 本当の姿でAホークツインをリリースしたいという人間たちがいる。幸福なことじゃないか。きみは若い人たちの提案に乗るべきだ。そして、過去の怒りから解放されるべきだ。俺は、そのことを切に願っている」
 動画は終わった。灰江田は全身の力を奪われた気がした。なるほど橘は、灰江田が森下のところに行ったのを、酒見の報告で知ることができた。その情報を知った橘は、森下に提案したのだ。今日の話し合いのために、赤瀬宛のビデオレターを用意したいと。
 森下は、橘のために動画に出たのではない。赤瀬のために出たのだ。赤瀬に対して森下は負い目がある。赤瀬の家庭を壊してしまったという、罪の意識を持っている。赤瀬のためならばと思い撮影に応じた。それを橘は自分のプレゼンに組み込んだのだ。
 このあと音声を聞かせたとしても見劣り感は否めない。灰江田の持っているカードは、赤瀬の目に、橘の動画の劣化コピーに見えるだろう。森下からのメッセージというアドバンテージは、完全に橘に奪われた。
 あるいは橘は、このインパクトを十二分に活用するために、なんらかの方法で先攻を取ったのかもしれない。橘自身に手品の趣味はないが、コイントスをした部下がその技術を持っていることは十分考えられる。橘は、それぐらいの仕込みをする人間だ。灰江田は、コインの裏表で先攻後攻を決めるのを認めたことは、迂闊だったと反省する。
「私のプレゼンは以上です。次は白鳳アミューズメント側ですね。期待していますよ」
 本心とは裏腹に、橘は紳士のように振る舞う。本当はスパイを使い、情報を盗み、こちらを倒すために罠を張り巡らせた。しかし、そうした気配を一切見せずに自分の席に座る。
 灰江田は立ち上がる。頭を抱えている山崎が見えた。青くなった静枝が目に入る。このまま同じようなプレゼンをしては駄目だ。すべてのクオリティで橘に負ける。まだ秘密は残されているが、それよりも現代的ビジュアルへの改変を赤瀬が取る可能性もある。勝利の道を探るにはどうすればよいか。灰江田は決意の表情をコーギーに向ける。
「コーギー。俺のパソコンではなく、おまえのパソコンをプロジェクターに繋げ」
「えっ」
 困惑の表情を、コーギーは見せる。
「赤瀬さんは技術者だ。どのように謎を解き明かしたのかを解説する」
 ぶっつけ本番だが仕方がない。橘とはまったく異なるタイプのプレゼンをおこなう。そして、赤瀬の技術者としての魂に訴える。クオリティの対決には持ち込みたくない。勝ち負けということもあるが、ゲームを購入するユーザーのためということもある。
 グリムギルドのことだ、権利だけ取れば大幅なコストカットをするはずだ。見栄えのよい派手な画面を作っているが、時間をかけてテストや調整はしないだろう。各ゲーム機やスマートフォンに対しての最適化は、無視される可能性が高い。これは橘の私怨だ。会社にとっては、うま味のない仕事。まともな予算を割く理由がない。
 劣化ゲーム。灰江田が忌み嫌い、そう呼んでいるゲームたち。Aホークツインを、そうしたゲームにすることは避けたい。ゲームを愛する人間として、グリムギルドにAホークツインを渡したくはなかった。
「セッティングをしてくれコーギー。そして、俺が言った画面を、素早く出すようにしてくれ」
 コーギーは緊張した面持ちでうなずき、ノートパソコンをプロジェクターに繋ぐ。
 ノートパソコンの操作はコーギーがやる。プレゼンの内容は、灰江田がその場で考える。完全なアドリブ。これは大きな賭けだ。灰江田は画面が出るのを待って、赤瀬に語りかけ始めた。

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柳井政和「レトロゲームファクトリー」

柳井政和 /新潮社yom yom編集部

失踪した伝説的ゲームクリエイターの謎を追え――。 『裏切りのプログラム ハッカー探偵 鹿敷堂桂馬』で小説家デビューを果たした プログラマー・ゲーム開発者が贈る、本格ゲーム業界小説! 電子書籍文芸誌「yom yom」に...もっと読む

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