柳井政和「レトロゲームファクトリー」

柳井政和「レトロゲームファクトリー」第40回

レトロゲームを最新機用に移植する会社「レトロゲームファクトリー」。社長の灰江田直樹とプログラマーの白野高義(コーギー)は、ファミコン時代の名作「UGOコレクション」全十本の移植という大きな依頼を受ける。ただ、実現には大きな障害があった。それは最後のゲーム「Aホークツイン」の権利のみを買い取った開発者の赤瀬裕吾が行方不明なこと。二人が必死に見つけ出した赤瀬は、移植許可の交換条件に「完璧なAホークツイン」の復元を提示した。復元に挑む灰江田たちだったが――。
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第八章 対決

 飛行機は日本に向けてフライトを続けている。窓際の席、隣には秘書のモニカ、赤瀬裕吾は、左手でタブレット端末を持っている。論文を読んでいたが頭に入ってこなかった。空いた右手で折る動物は、ゆがんだものしかできていない。
「そろそろ諦めて、仮眠でも取られたらどうですか」
 モニカが呆れた声で尋ねてくる。
「そうだな」
 タブレット端末をオフにしてモニカに渡す。モニカは折り紙も一緒に片づけてくれた。赤瀬は窓の外に視線を移す。美しい青色の景色がどこまでも広がっている。赤瀬は、これから見るであろうAホークツインが、どれだけ本来の姿に近づいているのだろうかと考える。
 自分の人生に刺さった大きなトゲ。ゲーム業界を去った切っ掛け。その後の家庭崩壊を招いた原因。
 赤瀬は日本各地を放浪したのちアメリカに渡った。大学で教育について学び、教育と情報技術の融合を目指すマジック・エデュケーションという会社に入った。

「ヘイ、ヒューゴー。部屋の配置は、これでいいかい」
 同僚のマイクが、並べた机を手で示して得意げな顔をする。
「ああ、ようやく自分のプロジェクトを持てる。人数は俺を含めて三人という小所帯だが、まあ、最初はそんなものだろう」
 マジック・エデュケーションの社内の一室。殺風景な部屋に運び込まれた机とコンピューター。毎週プレゼンを続けて、入社一年目にして、やっとプロジェクトの許可が下りた。そのことが、素直に嬉しかった。 この会社は元々教育系出版社の子会社で、電子化時代に向けた電子教材を開発するために作られた。大学で博士号を取得した赤瀬は、マジック・エデュケーションに入り、教育向けプログラミング環境の作成を目指した。
 赤瀬は、自身のプレゼンを思い出す。子供向けの本や教材が、電子に置き換わるように、知育玩具もいずれ電子化される。そのときに対応した電子知育玩具の開発を目指す。そうした話をして、会社の上層部を説き伏せた。
「それにしても、コンピューター上で子供たちがゲームを作ってお互いに遊ぶ。そんな未来は本当に来るのかい」
 マイクが、不思議そうに赤瀬に聞いてくる。
「来る。それは確実にな。子供は身近なもので、新しい遊びを発明する。そしてコンピューターはどんどん身近になる。五年後、十年後、いつになるか分からないが、そうした社会は当たり前のものになるだろう」
「そうかい、ヒューゴーが言うのならば、そうなんだろうな。あんたは明確なビジョンがある。俺もいまの仕事が片づいたら、ヒューゴーのプロジェクトに入れてもらおうかな」
「歓迎する」
 マイクは、にっと笑みを見せて部屋を出て行った。半年後、マイクはヒューゴーのチームに加入する。最も多い時期で、五人が一つの部屋で働いた。
 最初の製品は一年後に完成した。名前はマジック・トイ・プログラム、通称MTP。簡易プログラミング言語で、子供が短時間でゲームを作れるものだ。パークとは違ってビジュアル化されておらず、直接文字でプログラムを入力するものだった。
 MTPとその関連商品は、一部の子供たちから熱狂的に支持された。しかし売り上げは伴わなかった。会社に大きな利益をもたらすほどの市場が、社会にまだできていなかったからだ。コンピューターは、どこの家庭にでもある身近なものではない。MTPは早すぎた。
 それから一年して、マジック・エデュケーションは大きく方針転換する。短期的な売り上げの重視。親会社である教育系出版社の事業が悪化してきたためである。MTP開発プロジェクトは、不採算部門として解体された。ソフトウェアは完全な姿になる前に、更新が止まった。赤瀬は、Aホークツインに続いて二度目の挫折を味わうことになる。
 マジック・エデュケーションは数年待たずに倒産した。その後、赤瀬はいくつかの会社を巡りながら再起を図る。プログラミングの腕があったため、暮らすのには困らなかった。しかし、自分が作りたいものを完成させるには資金が足らない。ソフトウェアだけでなく、現実に触れられるプロダクトも開発する。販路も開拓する。それは、一人の力だけでは成し遂げられないことだった。
 赤瀬は、パークのプロトタイプを作成して、ベンチャーキャピタリストたちに会い続けた。そうした生活を二年ほど続けて、一人の富豪との面会を取り付ける。起業で成功し、その後引退して投資をおこなっている人物。彼は無類のゲーム好きだった。
 ここが勝負に出るべきところだと赤瀬は判断する。新しい人生を歩むと決め、消し去った過去の経歴。赤瀬が開発したAホークツイン以外のゲームは、アメリカの企業にライセンスが供与され販売されていた。それらのゲームのスタッフロールは、赤瀬が開発したときのまま流通していた。
 情報を漏らさないことを富豪に約束させ、赤瀬は自分がそれらのゲームの開発者であることを明かす。最初、富豪は疑ったが、話を聞くうちに赤瀬が本物だと理解した。

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失踪した伝説的ゲームクリエイターの謎を追え――。 『裏切りのプログラム ハッカー探偵 鹿敷堂桂馬』で小説家デビューを果たした プログラマー・ゲーム開発者が贈る、本格ゲーム業界小説! 電子書籍文芸誌「yom yom」に...もっと読む

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