柳井政和「レトロゲームファクトリー」

柳井政和「レトロゲームファクトリー」第39回

レトロゲームを最新機用に移植する会社「レトロゲームファクトリー」。社長の灰江田直樹とプログラマーの白野高義(コーギー)は、ファミコン時代の名作「UGOコレクション」全十本の移植という大きな依頼を受ける。ただ、実現には大きな障害があった。それは最後のゲーム「Aホークツイン」の権利のみを買い取った開発者の赤瀬裕吾が行方不明なこと。二人が必死に見つけ出した赤瀬は、移植許可の交換条件に「完璧なAホークツイン」の復元を提示した。復元に挑む灰江田たちだったが――。
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 灰江田は、スパイを炙り出す作戦を開始する。まずは山崎に連絡して、白鳳アミューズメントが所有する、アイトラッカーを貸してもらうことにした。アイトラッカーは視線追跡をするための装置とソフトウェアだ。その機器を利用して、修正版Aホークツインをプレイしている人の、視線の動きを調査するとドットイートで発表した。常連客たちは、少し変わった体験ができるということで、全員実験への協力を約束してくれた。灰江田はカウンター付近に立ち、常連客たちの方を向く。
「高額な機器なので集中してプレイしてもらいたいです。というわけで一人ずつ事務所でプレイしてもらいます。順番に呼ぶので呼ばれたら来てください」
 そう宣言したあと、灰江田とコーギーは二階の事務所に移動した。部屋は相変わらず狭苦しい。壁を囲むように金属製のラックが並び、中央にテーブルと二脚の椅子がある。そのテーブルの上に、アイトラッキングの装置がついたノートパソコンを置き、USB接続のゲームパッドを繋いだ。
 窓から一階のナナに知らせて、一人上がってきてもらう。そして、視線の位置を合わせるための調整をおこない、ゲームを開始する。記録するのは目の動きだけではない。ゲーム画面も録画して、なにを見ているのか分かるようにする。
 数人が順にやって来た。アイトラッキングの情報は、なかなかに面白かった。シューティングゲームに慣れていない人は、頻繁に自機と敵とのあいだで目をさまよわせる。しかし上級者は違う。画面全体をながめて、時折確認のために視線を動かす程度だ。そうしたデータを取りながら、灰江田とコーギーは本来の目的のために芝居をする。
「灰江田さん。こんなアイトラッキングの機器を借りる余裕があるんなら、僕の待遇をよくしてくださいよ」
「なにを言っているんだ。うちに金がないことぐらい知っているだろう。給料なんてものは、そう簡単には上げられないんだ。苦しいからといって気軽に下げられないからな」
「別に給料を上げてくれと頼んでいるわけじゃないです。僕はですね、仕事環境の充実を望んでいるんです。具体的に言うと機材を買って欲しいんです」
「ふーん、どんな機材が欲しいんだ」
「僕、仕事をノートパソコンでしていますよね。デスクトップパソコンも使いたいんです。そして、モニターを四枚並べたいんです。中央に一枚、左右に一枚ずつ、上に一枚で、合計四枚」
「おいおい、無茶言うなよ」
「安い投資じゃないですか。ちゃんとしたグラフィックボードを積んだマシンに、モニター全部合わせても三十万円いかないですよ」
「三十万円って、勘弁してくれ」
「僕は、そうした環境で働きたいんですよ」
 コーギーは怒ったように言う。ゲームをプレイしている客は、灰江田とコーギーの話に耳を傾けた。
 会話の中で出す条件は、各人異なっている。メモリー増設の場合もあれば、高額なキーボードを要求することもある。もしスパイがいるなら、コーギーの引き抜き条件として橘に連絡するはずだ。灰江田とコーギーは、一人ずつ事務所に呼びながらスパイの炙り出しに努めた。

 二日後、営業を終了したドットイートで、灰江田とコーギーがくつろいでいると、スマートフォンが鳴った。橘からだ。コーギーは緊張しながら電話に出る。
「白野くん。うちに来る決意は固めたかい」
「えー、そのー。こちらの会社も、それなりに働きやすいですし」
 コーギーは、演技なのか本当なのか分からない感じで、しどろもどろになりながら返事をする。
「開発環境に満足していないんじゃないかね。うちなら、どんなものでも用意するよ」
「そうなんですか。でも、なにが許可されるか分からないですし」
「好きなマシンを購入することもできるし、モニターをたくさん並べることもできる。うちは開発者が望む環境を用意できる財力がある。是非、うちに来て開発をしなさい」
「あのー、考えさせてください。とても魅力的な条件なので」
「分かった。早く返事を聞かせてくれ」
 コーギーと橘の電話は終わった。コーギーは振り向き、灰江田に報告する。
「モニターです」
 灰江田は、すぐにノートパソコンの表を見る。なるほど彼がスパイだったのか。灰江田とコーギーは視線を交わし、どうするか話し合った。

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