更新時間は最初から0時にしたかった
——『Dモーニング』を使っていてすごいと思ったのは、『週刊モーニング』発売日の木曜0時に配信されることです。
島田英二郎(以下、島田) リリース当初は木曜の朝9時に配信していたんですよ。本当はね、最初から0時にしたかったんです。だって、モーニングの発売日の木曜日は、0時から始まるんだから。でも、さすがにシステム的に0時更新はこわかったので、最初は9時にしました。リリース前に1ヶ月の内部向けテストランを実施して、「なんとかいけるんじゃないか」という段階で、リリースした。そのときは午前9時更新が精一杯だなという結論になったんですよ。もともとトラブルが起きなければ繰り上げていこうと考えていたので、徐々に早くしていきました。
——ツイッター上でも、配信時間が早まったことを喜ぶ声がたくさんありましたよね。0時配信が始まる日は、島田さんも「現場は修羅場の綱渡り」とツイートしていましたが、具体的にどんな作業が大変だったのでしょうか。
島田 モーニングとは別にDモーニング用の原稿などがあるので、その校了やページの順番がちゃんと反映されてるかのチェックなどでバタバタしていました。これ、大変なんですよ(笑)。電子化したとはいえ、文章部分はいったん紙にプリントして校閲しなければいけない。デジタルのメディアをつくるのって、不思議なもので、リリースに向けて早めに準備していたら余裕を持ってスタートできるかっていったら、そうじゃなかったんだよなあ(笑)。やっぱり最後1週間くらい、現場担当は徹夜することになりました。もう体力勝負だよね。cakesもそうだったんじゃない?
——そうですね(笑)。なんなんでしょうね。
島田 まあ、紙もぎりぎりで修羅場になるのは同じだけどね。なにしろ、紙の発売日と電子版を同日に出すのは初めての試みだったから、どういう作業工程でやっていくかという部分から試行錯誤しましたね。でも、製版印刷所の方も、講談社の社内も、みんなすごく協力してくれて、なんとかリリースできました。Dモーニングが実現できたのは、講談社という会社にチャレンジスピリットがあったからだと思いますよ。
——マンガ週刊誌初の試みということで、他社からも「Dモーニングはどういうふうにやってるの?」と聞かれたりしませんか?
島田 実は、さほどでもないんですよ。いろんな出版社の人がいる場に参加しても、他社の人からは意外と聞かれないんですよね。まあ、内部事情に関してはお互い聞かないのがマナーみたいなとこもありますし。
——そういうものなんですね。
島田 他にもやるとこが出てくれればおもしろいのになあ、と思ってるんですけど。まあ、虎視眈眈ともっと革新的な企画をこっそり進めてるのかも(笑)。マンガ雑誌、特に週刊誌はマンガの最前線でしょう。一番たくさんの読者が最初に作品にふれるメディアなんだから、デジタルコンテンツの主戦場で戦うことについて、少なくとも現場は考えてるような気がしますが。
Dモーニングはビジョンの提示だった
——Dモーニングは、「これを待っていた!」というくらい読みやすくて、感動しました。なにより、iPhoneで読めるのがうれしいです。
島田 そうなんだよね。週刊誌みたいに、愛蔵するんじゃなくてフローで流れていくものは、予想以上に電子と相性がいい。おれはやっぱり紙世代だからさ、必然性にかられて電子化したものの、どれくらい電子版がおれ自身にフィットするのかなと疑問に思ってたんですよ。だけど……いやー、いいね!(笑)読んでみて、ほんと電子もいいなあ、と思いましたよ。
——先ほどマンガ週刊誌初の試みというお話がありましたが、これにチャレンジした島田さん自身は、もともとデジタル関係に強かったんですか?
島田 今も昔もめちゃくちゃ弱いです(笑)。でも、単純に「いまはモーニングを読んでいない、将来の読者が何を求めているのか」を考えたら、そりゃ電子化してほしいと思ってるよね、という結論に自分の中でなっただけ。
——ツイッターもけっこう早くから、編集長としての公式アカウントで発信をされてましたよね。
島田 ソーシャルメディアも全然詳しくないけど、部員から「やれ」って言われて。やってみたら新人賞のプロモーションのために使えることがわかったの。最初は「つぶやくって、何をだよ?」みたいな感じだったけどさ。電子的なものって、必要で便利だから普及するわけで、その必要性と便利さに気が付きさえすれば、詳しい必要はまったくないんだ。詳しい人のほうが、かえって使い方を間違える可能性があると思うな。
——なるほど。ご自身がデジタルの世界になじんでいたから、Dモーニングを始めたわけではない、と。
島田 Dモーニングっていうのは、ビジョンの提示なんですよ。
——ビジョン、ですか。
島田 編集長の仕事は、我々は何を目指すか、どこに向かうかということを設定して、明示すること。紙の雑誌も右肩上がりで売れていた時代にくらべたら、今の時代は、ビジョンを提示することがすごく必要。この時代に何をしていくべきか、という答えが「Dモーニング」だったわけです。
——やはりこの先、紙の雑誌はどんどん難しくなるんでしょうか?