伝わらなくてあたりまえ
送り手に自分の言葉が欲望の発露だという認識がなければ、そりゃ「なんでうまく伝わらないんだろう?」と悩ましいはずだ。
送り手のことが好きで好きでたまらない受け手ならば欲望の一つや二つは受け入れ て、その望む方向に動いてくれるかもしれないが、残りの全人類はその欲望を受け入れる合理的な理由もないし、そもそも人の欲望に向き合わせられるのはあまり気分のいいものではない。
だから送り手の言葉=提案=欲望はしばしば、あっけなくはね返される。そして時には無視される。
送り手「このキャンペーンが最善と考えます(ので採用して欲しい)」←受け手 「最善とは言えないんじゃないかなあ?」
送り手「そんな効率の悪いやり方には反対だよ(という意見に同意して欲しい)」 ←受け手「あのね、今回のテーマは効率ではないのだよ」
送り手「今度の連休は海外に行こうよ(国内ではなく海外に行きたいんだ)」←受け手「絶対京都じゃなきゃイヤだ」
送り手「チャーシューメン麺固めで(そのように食べたいのでそのようにつくって欲しい)」←受け手「ウチそういうのやってないんで」
送り手「私にはそれは絶対できません(ということをわかって欲しい)」←受け手 「もう決定事項だから」
送り手「運転手さん、次の角を右(に行って欲しい)」←受け手(無視)
送り手「キミが好きだ(お願いだから付き合って欲しい)」←受け手「ゴメン、そういう気ないし」
つまり、送り手の言葉を、拒絶しようが無視しようが受け入れようが、すべての判断をするのは受け手ということになる。その理由は合理的なものとは限らないし、単に受け手の気分によることも多い。
受け手がすべてを決める
ここまで書いてきた流れを順に並べてみる。
言葉は発せられたとたん、送り手と受け手をつくる。
送り手の言葉は、まっすぐ受け手に伝わろうとする。
送り手は言葉を伝えることによって、受け手を自分の望む方向へ動かそうとする。
送り手の言葉は、受け手への提案だと考えることができる。
提案である以上、送り手は同意以外を求めてはいない。
しかしその提案に同意するかしないか、すべてを決めるのは受け手である。
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