初のフェス旅行や帰省というあれこれを済ませ、3人&1匹による東京の日常が再び始まりだした2018年秋。生まれてからずっとあお向けに世界を見ていた子供は、徐々に体の向きをうつ伏せへと寝返りし始めるようになった。
そんな頼もしい成長もあれば、こちら的は「マジかー」というような変化も現れだす。生後3ヶ月頃を境に兆候を見せ始めていたが、彼はもう哺乳瓶から一切の汁を吸わなくなってきていた。これは、順調だと言えていた我が家の育児において、初となる困難の到来だった。なぜなら哺乳瓶を受け付けない、イコール妻のおっぱい強制ワンオペ化につながるからだ。
妻は8月以降、それまでもほとんど取れていなかった9時間以上の睡眠をいよいよ取ることができなくなっていた。加えて高身長ゆえに持ち手の高さが合わないベビーカーのせいで肩や腰への負担も目に見えて大きくなっていたし、追い打ちのように妊娠以降ずっと活動休止していた生理も新装開店するという頃合いを迎えていた。
そして夫にも変化が。夏の終わりから仕事の負担が少しずつ増えてきた。それは業務量がひどいとかそういうブラック企業的なものではないものの、自分のパフォーマンスの足らなさを見せつけられるような思いをすることが重なり、しんどい気持ちになることが多かった。「現場荒れてるけどもう帰宅してあいつを風呂に入れなきゃ」など、育児と仕事を持ち上げる天秤がガタついて義務感に苛まれるみたいな、バイブスの至らない日も少なくなかった。
よく動く母乳クラスタの赤子、眠れず心身ともに削られている妻、そして仕事にかまけ家をおざなりにする夫。このトリオが織りなすアンサンブルは、当然ながらいびつな不協和音を奏でる。秋は2週間に一度くらいのペースで夫婦が荒れた。私は妻にドチャクソ愛されてる自信があって、きっと彼女にも私の気持ちはちゃんと伝わってると思う。そんなふたりなのに、もうバチバチに対立するのだ。
妻の言い分はこう。——おれが、食洗機に食器を突っ込んだり洗濯機の電源を入れたりしただけで家のことやった気になってる。掃除も雑というかやらないし、自分の連れ子である猫のエサとかトイレも替えない。深夜まで起きた翌日に昼まで寝て、仕事や原稿でパツパツになってるときは「いただきます」「ごちそうさま」も言わないし、注意したらしたですぐ不機嫌になる。自分一人の時間が欲しいと言い続けているのに、助けるどころかその方法を考えもしない。独りで誰にも評価されない家のことを全部やり、子供を死なせないよう気を張っているのに、どうして夫は「自分なりに家のことやってる」とか言って、のうのうと育児エッセイなんて書いてるのだろう。超ダサい。
対する私の言い分はこう。——いつのまにかシーツを洗ってたり猫のエサを取り替えてたりと家事の取り掛かりの早い妻が、その基準で自分を採点してくる。ダメなときはもう何をしても叱られてるような気分だ。それどころか「眠れない彼女のために」と週末朝にぐずる子供をリビングに連れてあやし、乳の代わりに離乳食チャレンジだと試していたら「まだあげてない食材は平日午前中にやってよ!」と責められてほんとマジかよ。仕事は調整ごと猥雑になるし突発タスクどんどん積み重なるし、本当にやりたかったことひとつもできてない。育児ってほんとしんどいな。いや今その育児できてないとか言われてるな。もう人生がしんどいな。育児エッセイなんて書いてる場合じゃないよ、振り返るどころか目の前のことでもうパッツパツだもん。
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