どんな仕事にも「別れ」はあるだろう。
転職や異動、プロジェクトの終了などによって、仲間やそれまでの生活とお別れする。
そのときに、解放感を抱くこともあれば、寂しさを感じることもあると思う。あるいは、すぐ次のことに興味が移り、別れの余韻を引きずらない人もいるかもしれない。
山小屋はワンシーズンごとに契約が終了する季節労働なので、別れが毎年やってくる。
仲間と別れるのは寂しいけど、仕事から解放されるのは嬉しい。下山後は、名残惜しさでついつい遊びまくってしまう。
篠原涼子の曲名みたいな言い方になるけど、下山シーズンは楽しさと寂しさと名残惜しさとで心が忙しいのだ。
自分の下山より、仲間の下山を見送るほうが寂しい
前回は小屋閉めについて書いたけど、実は、スタッフ全員が小屋閉めまでいるわけではない。基本的に、新人スタッフは小屋閉め前に下山する。
私も、はじめの頃はみんなに見送られて先に下山していたし、最後のほうは先に下山するスタッフを見送っていた。
自分の下山以上に、仲間の下山を見送るときのほうが寂しい。
今から下山するスタッフはみんな、解放感からテンションが5割増になっている。そのため、普段はおとなしい子も、浮かれたテンションで握手や記念撮影を求めてきたりする。
ちなみに、昨年はこの日に毛足の長いベージュのフリースを着ていたため、若い女の子たちから「サキさん、柴犬~」と抱きつかれたりなで回されたりした。
私はこういったお別れムードに気恥ずかしさを感じるタイプなので、「気をつけてねー!」「また打ち上げで会おうねー!」といった感じで、あっけらかんと見送る。
だからドライに見られがちだけど、実はかなり、センチメンタルな気分になっている。自意識過剰だから、センチメンタルさを表に出したくないのだ。
キラキラした表情で下山していく仲間を見ていると、なんだか羨ましくなる。みんな同じことを思うようで、残ったメンバーは口々に「いいなぁ」「早く下山したいね」などと言い合う。
さて、下山メンバーを見送って小屋に戻ると、「あれ? こんなに静かだったっけ?」と戸惑う。
「今までいた人たちの不在」を強く感じながら、残ったメンバーは小屋閉め作業を続けなければいけない。
これがなんとも寂しいのだ。
いざ下山! 寂しいかと思いきや……
小屋閉め作業をしているときは「もうすぐ下山……」と寂しい気分になる。
だけど、いざ下山当日となると、朝からバタバタしてまったく寂しさを感じる余裕がない。
最後の最後で発電機にトラブルが起きて「今日中に下山できるのか!?」と慌てたこともある(慌てていたのは支配人だけど)。
そして、いよいよ下山開始。私は歩くのが遅いからみんなについていくのに必死だ。
この時期の山は、うっすらと雪化粧をしていてとてもきれい。夏や秋の鮮やかな山も好きだけど、冬のはじまりの静かな色合いの山も好きだ。ついつい、立ち止まって景色を眺めてしまう。
この景色とも、来年までお別れなんだなぁ……。
そう思うと神妙な気持ちになる。
しかし下界に到着した瞬間、そんな気持ちもどこかへ行ってしまう。
気持ちがパチッと下界モードに切り替わり、打ち上げや遊ぶ予定など、目先の楽しいことで頭がいっぱいになるのだ。
さらに、久しぶりの街はすっかりクリスマスムード。さっきまでしみじみと山の景色に見とれていたのに、今度はイルミネーションを見て「わぁ、きれーい!」と目を輝かせる。
我ながら、切り替えが早いなぁと思う。
打ち上げは下山後の一大イベント! 飛行機で来る人も……
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