毎朝泣かれた保育園。私の罪悪感を救ってくれたもの

現代の子育てをめぐる問題を考える連載。第3回は、子どもを保育園に預ける罪悪感についてです。母との別れを拒み、泣き叫ぶ我が子。「親である自分」より「働く自分」を選んだことへの自責の念。月日が経って、成長した娘を通して感じた、保育園からの贈り物の物語です。

娘を保育園に預けだしたのは、生後8ヶ月の頃だった。
まだ歩けず、話せもしなかったので、名残惜しさはあったものの、復職時期の関係で、他の選択肢は選べなかった。

新入児の娘は、保育園に着くだけで、毎日まいにち、ギャーギャー泣いた。

もともと、パパの抱っこさえ嫌がるママっ子で、人見知りも強い子だ。
なので予想通りだったのだけど、命綱のように握りしめる私の上着を、小さな手からクッと引き抜くたびに、私の心もザクっと削られた。

先生たちは優しく親切で、はじめはみんなこうですよ、段々楽しめる時間が増えますよ、とほほ笑みかけてくれていた。
でも、お昼寝もできずに泣き続ける娘は、迎えにいくと、フラフラだった。

入園1ヶ月後には多くのお子さんが新しい環境に慣れ、笑顔で親と別れていたのに、娘は頑固に泣き続けた。先生たちも、少し困った様子にみえる。気のせいかもしれないけれど。

そんなゴールデンウイーク明け、迎えにいくと「はじめてお昼寝できました! 今寝てますよ!」と、玄関で会った先生に、明るく告げられた日があった。

ああ、よかった! ついに一歩進んだんだ!
ホッとして、お教室までの階段を駆け上がる。
嬉々として覗き込んだ娘の寝顔には、太い涙のスジが刻まれていた。

ドン!!と強く胸を突かれたような衝撃だった。

嗚咽をこらえ、唇を噛み潰しながら、その場で震えて泣いた。

疲れ果てた様子の、口が開いた寝顔。泣きはらして赤い目元。
何度も何度も、みえない私を、探したのだろう。

これは、大事な大事なSOSではないのか?
明らかに他のお子さんより、保育園への拒否が強い娘。
8ヶ月ではまだ無理だった? 保活に夢中で、ベストな選択を間違えた?

頭を抱えて悩んでも、結論はいつも「でも仕事は辞めたくない」だった。
「親である自分」より「働く自分」を、私は選んだのだ。

“ひどい母親…”

顔のない、誰かの声が頭に響く。
指をさして、コソコソ私を責めたてる。


答えが出ないまま、時間はすぎて、季節がめぐる。

子供の成長とは大したもので、私が内側の葛藤をしているあいだに、夏になる頃には、娘はすっかり保育園に適応した。
たまに朝嫌がる日はあっても、楽しげにすごす日が多くなり、お昼寝もたっぷりできる。

先生になつく娘の姿は可愛かったし、慣れてよかった、ありがたいと感じる一方で、「あんなに嫌がっていたのに、登園をやめなかった自分」は依然として心に影を落としていた。

保育園に大きな感謝があるのに、「100%通ってよかった!!」とは言い切れない。グズグズした醜い生き物が、私の中に勝手に住みつき、我がもの顔で暮らしていたのだ。

そして2度目の春がきて、娘は1つクラスが上がる。
担任が変わったので、はじめこそモジモジしていたが、去年の拒絶ギャン泣きとは違い、「これならすぐに大丈夫そう」と見通しがたつ。

そんな5月の朝、園の玄関で娘と座って靴を脱いでいたら、猛烈に泣いている赤ちゃんがやってきた。今年の新入児だ。
心配と困惑と罪悪感のミックスシャワーを浴びたような母親の表情には、ひどく見おぼえがある。

なにか、声をかけよう。
そう思って口を開いたのに、緊張のせいか、ゴホッゴホッとせき込んでしまった。
まだ何も話してないのに、恥ずかしいな…。
そう思ったとき、私の背中に、温かい何かが添えられる。

「ママ、らいじょーぶ?らいじょぶよぉー」

言葉が増えてきた娘が、私の背中に小さな手をあてていた。

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育児はまぶしい、オモチャ箱

瀧波和賀

「現代の子育て」をとりまく、問題や課題、そして幸福に注目して、その構造や育児現場のリアルについて、コラムとエッセイを連載します。子供がいる毎日は、なんとにぎやかで、ごちゃごちゃで、カラフルなことでしょう。1つ1つが大切で、特別で、でも...もっと読む

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okometanisan 「この子自身と向き合わなくては、と思うのに、生涯収入や私自身の人生設計を、なかったことにはできなくて、子供の「今だけ」を考えた選択などできない現実に、ぺしゃんこにされた。」 https://t.co/Z1jsvefgg8 5日前 replyretweetfavorite

tkryun 状況は違うものの、ものすごくわかる。この記事の苦い方の涙にも暖かい方の涙にも経験がある> 5日前 replyretweetfavorite

HRK165415 今朝預けたとき、いつにも増してギャン泣きだったからこのコラムが刺さりすぎて、目から汗が…。 5日前 replyretweetfavorite

naarakkueri 家の子は比較的すぐに馴染んだけれど、この記事は涙が出た。 本当にこれ。 https://t.co/qheCuYJsYg 8日前 replyretweetfavorite