前編】21世紀には「見栄」は通用しない

ソーシャルメディアが普及したことによって、人々は見栄を張ることができなくなってきた――。そんな世界でどう生き延びていくかを描いた『中身化する社会』が星海社新書から発売されました。仕事、ファッション、ライフスタイル、広告など、すべての分野においてより本質を問われるようになった時代に、僕たちはどのように向き合うべきなのか。筆者の菅付雅信さんに話を聞きました。新書の内容の一部も掲載開始中! ぜひご一緒にお読みください。

セルフブランディングと中身化は違う?

加藤貞顕(以下、加藤) 『中身化する社会』、拝読させていただきました。腑に落ちる点がたくさんあると同時に、突っ込んでお聞きしたいこともあって、今日は本にこんなに付箋を付けてきてしまいました(笑)。

中身化する社会 (星海社新書)
中身化する社会 (星海社新書)

菅付雅信(以下、菅付) ありがとうございます(笑)。ぜひいろいろお話しさせてください。

加藤 菅付さんはこの本のなかで、ソーシャルメディアが普及し、ウソや見栄がすぐにバレてしまう現在においては、より本質的な「中身」が重要になってくると主張されていますよね。僕もcakesを運営している立場の人間として、非常に納得のいくものでした。

菅付 そう言っていただけると、とても嬉しいですね。で、聞きたいところというのは、どういうところでしたか?

加藤 まずお聞きしたかったのは、編集者の菅付さんが、なぜこのような社会論を書くに至ったのかということです。

菅付 実を言うと、『中身化する社会』は計画的に執筆された本ではないんですよ。

加藤 きっかけは何だったんですか?

菅付 昨年の5月にニューヨークに行ったことですね。そこで出会った人たちがとにかくカジュアルで、街を歩く人たちの気分がずいぶん変わってきているなと思ったのが始まりです。

加藤 本の冒頭にあるニューヨークの人々の話というのは、執筆のきっかけになったエピソードだったんですね。

菅付 そんな矢先に、「MODE PRESS(モードプレス)」というファッションニュースサイトで連載をやらないかという話をいただきまして。本当は「今の流行は何か」とか、そういう連載を求められていたのかもしれない。でも、足元では、ファッション、特にラグジュアリー・ブランドが売れなくなってきた実態が進行しているわけです。

加藤 実態を無視した話を書く気にはなれなかったわけですね。

菅付 率直に言えばそうですね。それで、思い切って「皆がなぜファッションに興味がなくなってきたのか」について書くことにしたんです。そのときの構想が一気に膨らんで一冊の新書にまとまったのが、『中身化する社会』でした。

加藤 言われてみれば、僕もファッションにお金を使わないようになってきた気がします。

菅付 見栄というのは20世紀的な概念で、21世紀にはそぐわなくなってきていると思います。最近ではソーシャルメディアでかなりのことが可視化されてしまうので、どんなに外見を取り繕っても中身がある程度露呈してしまいます。

加藤 出してみて、反応はどうでしたか?

菅付 賛否両論ですね。でも、それを覚悟して書いていましたけど。「今、自分が漠然と置かれている状況を上手くまとめてくれている」という評価がある一方で、「こんなの一部の人だけでしょ」「全然こんな世界になってないよ」という意見も当然あるわけです。その人がどういう情報環境の中で、どういうコミュニケーションを行っているかによって、とらえかたが全く正反対なんですよ。

加藤 2006年に梅田望夫さんの『ウェブ進化論』(ちくま新書)が発行されたときと、状況が似ているかもしれませんね。あの本の内容は、ウェブに親しんでいる人にとっては、すごく当たり前のことではあったんですよね。でも、それがすごくうまくまとめてあった。だから親しんでいる人にも受け入れられたし、そうでない一般の読者にも広がっていった。
 担当編集者の柿内芳文さんにも、ぜひ意見を聞いてみたいのですが。

柿内芳文(以下、柿内) 加藤さんのおっしゃるとおり、意見が割れているということ自体が、今の状況を示していると思います。もともと制作段階から、読む人によって反応が違うことは予想していたし、だからこそ面白いだろうと思っていました。

加藤 中身がソーシャルメディアによって可視化される社会というと、一時期流行った「セルフブランディング」と混同されてしまいそうですが、違いはなんですか?

菅付 まず言っておくと、僕は「セルフブランディング」という言葉は大嫌いです。

加藤 おお、そんなに(笑)。理由は何ですか?

菅付 セルフブランディングというのは、こんな格好をして、名刺をこんな感じにしろなどという話で、要は小手先のギミックじゃないですか。「中身化」という概念は、そういうものとは対極にあるんです。
 僕は「人生の作品化」という言葉を使っていますが、現代社会は、自分の生き様そのものを世の中に問われるように変化してきています。見栄が効かないという話をしましたが、小手先のごまかしも絶対に見破られます。だから、そういうのは、一番やってはならないことなんです。

加藤 なるほど。そう聞くとたしかに、中身化とセルフブランディングはまったくの別物ですね。

菅付 セルフブランディングはイメージの競争である一方、中身化、作品化は本質の競争です。中身化、作品化は生き方そのものであり、セルフブランディングとは似て非なるものなんですよ。まったく違います。

中身は絶えず流動するもの

加藤 これからの社会では、つくろった見せかけの自分ではなく、本当の中身を見せていく必要があるということですね。

菅付 方向性としてはその通りなんですが、実は「中身を見せる」ということは、すごく難しい問題をはらんでいます。よく「本当の自分でいたい」なんて言い方をする人がいますけど、加藤さんは、「本当の自分」がどういうものか確信を持って答えられますか?

加藤 いや、それは、難しいです。

菅付 そうなんですよ。普通、そうなんです。人間って常に変わっていく生き物なので、生き方も変われば、趣味趣向もどんどん変わっていく。つまり、「本当の自分」というのは、流動的なものなんです。生物学者の福岡伸一さんが言うように、生命の本質が「動的平衡」、つまり流動性にあるように。
 だから、当然「中身」も流動的にその都度変わっていきます。確固たる普遍の自分がないように、確固たる普遍の中身もないわけで、流動的な自分のなかの、ある一時点の状態が中身なんだと思います。

加藤 「他者から見た自分」という問題もありますよね。僕は以前、岡田斗司夫さんの『評価経済社会』(ダイヤモンド社)の編集を担当しました。その時に聞いた話しなんですが、岡田さんは昔、ネットでの自分の評価を、全てチェックしていたらしいんです。そのなかで、誤解してとらえているユーザーを見つけたら、いちいち反論していた。

菅付 岡田さんほどの有名人であれば、反論しても次から次へと似たような人が出てきて、気が遠くなりそうですよね。

加藤 そうなんです。岡田さんのリソースをそんなことに使うのも、もったいないですし。でも、岡田さんはあるときに「むしろこの評判を含めた結果の総体が『岡田斗司夫』なんじゃないか」と気付いたそうなんです。岡田さんはその、誤解も含めた評判のすべてを「岡田斗司夫2.0」と名付けて納得し、反論するのをやめたそうです。

柿内 それは素晴らしいことですね。「本当の自分」という存在しないものを探そうとするから、永遠に見つからなくて苦しくなってしまう。岡田さんの発想のように、人からの評判をすべて受け入れて、それを含めて自分なんだと割り切れたら一気に楽になると思います。

菅付 表面的なイメージで左右されるような20世紀的な概念は、だんだんベールが剥がされてきている。流動化する中身も、その都度、ソーシャルメディアで可視化される社会になってきています。「岡田斗司夫2.0」的なもののとらえ方も、見栄を張ることができなくなってきた、中身化の一種かもしれません。

このままでは広告産業は衰退する?

加藤 この本で菅付さんは、今後はファッション、化粧品、広告といったイメージ産業が衰退するとも指摘されていましたが……。

菅付 ちょうど先日、電通の社員300人の前で、「これから広告は衰退しますよ」という話をしてきました。

加藤 そ、それはすごいですね。具体的に、どうして衰退するんですか?

菅付 イメージがあまり有効ではない社会に突入しているので、イメージを先に提示することによって欲望を喚起し、商品やサービスを購入させるというビジネスモデルが成立しにくくなっています。
 最近では、商品を買うときも楽天や価格.comでレビューや値段を比較してから購入するわけじゃないですか。広告が素晴らしいからといって商品を買う人なんて、確実に減っている。

加藤 たしかに、思い当たる節ばかりです。とはいえ、広告産業に身をおく人たちは広告が衰退するにまかせているわけにもいかないですよね。今後は、どうすればいいんでしょうか?

菅付 広告産業は、本当の意味でのコミュニケーションの産業にならなければいけないと思っています。

加藤 はい。

菅付 つまり、子どもを騙すような産業ではなく、大人と大人の真剣なコミュニケーションを作っていかなければいけない。相手も情報を持っている、無知ではないということを前提にコミュニケーションする必要があります。

加藤 なるほど。広告業界も中身化しないといけないということですね。

菅付 メディアバイイング(広告枠の仕入れ・買い付け)はなくなることはないと思いますが、これからは、ありとあらゆるチャンネルを使って大人と大人の友情を築いていくような全面的なコミュニケーションが大切になってくるでしょうね。

(後編は7月16日(火)公開予定です)

ケイクス

この連載について

見栄」から「中身」へ—編集者・菅付雅信インタビュー

菅付雅信 /cakes編集部

ソーシャルメディアが普及したことによって、人々は見栄を張ることができなくなってきた――。そんな世界でどう生き延びていくかを描いた『中身化する社会』が星海社新書から発売されました。すべての分野においてより本質を問われるようになった時代に...もっと読む

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コメント

tanakashun すごく面白い。納得すると同時に背筋が伸びる感じが。 4年以上前 replyretweetfavorite

tokifujp だからこそ、隠れていたメンヘラたちが目立つようになったのだろう。 約5年前 replyretweetfavorite

ayakahan セルフブランドなんてしたって、今の時代は見透かされちゃいますよ、と世界婚活の本の編集をしてくれた菅付さんが言っていたのを思い出しました。https://t.co/s5cz1TwKG3 約5年前 replyretweetfavorite

MASAMEGURO 両方読んでくれて感謝! 約5年前 replyretweetfavorite