将棋で必ず勝てるシンプルな法則を、お教えしましょう。
それは「最善手」を常に指すことです。
当然のことながら、相手だって、考えられる範囲で「最善手」を指してくることでしょう。それに応えて、また「最善手」を指し返せばよいのです。とても簡単なことです。
「将棋とは、最善手を指し続ければ勝てる世界」という真理に、私は小学4年生のときに気づきました。新聞に載っていた名人戦の予選である順位戦の観戦記を読み、悟ることができたのです。そして次の瞬間、「私だってプロの棋士になれる」と強く感じました。
今思い返すと、私の置かれた環境は、「棋士」になるようにお膳立てされたようなものでは決してありませんでした。身の回りに、将棋の強い人がいた記憶もない。さらにいうと、私の父は将棋に興味がなく、ルールすら知りません。そんな環境で、「プロの棋士になれる」と突然確信するなんて、私は相当“変わり者”だったと思います。
一番よい手はビジョンとなって浮かんでくる
「最善手」の存在に気づいた私は、それから不思議な力を得ることになります。盤面を見た瞬間に、その局面で最も望ましい手が自然と浮かんでくるようになったのです。それは、まるで景色のように鮮明な「ビジョン」です。動画を再生するように、一瞬で「最善手を指したとき」の流れが現れるのです。
こんなお話をすると「棋士とはみな、そういうものなのか」と思われるかもしれません。
けれども、誤解をしないでください。プロとして活躍している棋士の全員が、「次の手がビジョンとなって見える」わけではありません。とくに印象に残っているところでいうと、升田幸三名人と大山康晴名人のお二人は、「最善手ばかりを指して勝つ力」に秀でていらっしゃる気がしましたが、そんな方はそうたくさんはいません。
つまり、どんな棋士でも「最善手ばかり」を指し続けられるというわけではないのです。これが「最善手」の不思議なところです。
人生の最善手は人智を超えたところにある
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