第17回】スペインの王者の風格と、「ちぐはぐ」な攻め ブラジル×スペインプレビュー②

【コンフェデ決勝直前の臨時更新!】前回に引き続き、ブラジル×スペインのマッチプレビューをします。次はスペインの『長所と弱点』と探るべく、スペイン×イタリアを分析していきます。熱気を帯びたブラジル×ウルグアイとは打って変わって、戦術的な『盤上対局』となったこの試合。スペインの攻撃を「ちぐはぐ」なものにしたプランデッリ監督の戦術と、それを修正したデルボスケ監督の手腕を解説します。

『PKは運』ではない。
スペインの王者の風格

フォルタレーザで行われた準決勝のスペイン対イタリアは、120分をスコアレスで終え、ハイレベルなPK戦の末にスペインが勝利を収めた。

後出しジャンケンなので適当に読んでもらって構わないが、ボヌッチが7人目のキッカーになったとき、僕は胸さわぎを覚えていた。というのもPK戦に入る前、イタリア側ではボヌッチがビブスを着た控えの選手とひたすら頬を叩き合い、まるでアントニオ猪木とアニマル浜口が向かい合っているかのように、気合いを注入するシーンを見た。

延長線の前ならともかく、「PK戦の前にそんなに気合いを入れて大丈夫かな。力んで外さなきゃいいけど…」と感じた。が、「そもそもボヌッチはキッカーには選ばれないか」と思い直した。
しかし、まさかの展開! 両チームとも6人全員が決め、ボヌッチに順番が回ってきてしまったのだ。そして…

ボールは宇宙の彼方へ消え去った…。

『PKは運』と主張する人がいるが、僕はそれには同意しない。キックの技術、メンタリティー、そしてスカウティング。サッカーの最も繊細な部分が絡み合う、ある意味ではサッカーのひとつの粋を極めた勝負と言ってもいい。

キッカー以外の様子も興味深い。イタリアがPKを蹴るとき、ブッフォンは味方の勝負を見届けず、背中を向けていた。一方、カシージャスは味方の勝負をそのまま腕組みをしながら見ていた。
また、キッカーとGK以外の選手たちは何をしていたか? イタリアは肩を組んで見守っていたが、スペインはそれをせず、それぞれが自由な体勢で待ち、数人は座っていた。

結果論ではあるが、PK戦に対してイタリアは気負い過ぎていたような感はある。逆にスペインからは余裕が感じられた。10年ほど前に語られていた、勝負弱いスペインはいったいどこへ行ったのだろう。

以前、シャビはグアルディオラ体制のバルセロナでチャンピオンズリーグを制した後に、こんなことを言っていた。「正直に言えば、チャンピオンズリーグに一回優勝すれば僕は満足すると思っていた。だけど、優勝は麻薬のようなものなんだ。一度それを味わうと、離れられなくなる。次も、次もと、欲しくなるんだよ」

優勝という麻薬。これが『勝者のメンタリティー』というやつだろうか。僕には想像もできない世界だが、確実に言えることは、今のスペインからは王者の風格が漂っている。それを改めて感じた試合だった。

試合の展開は『幅取り合戦』

さて。インプレーに話を移していこう。この試合の展開については、『幅取り合戦』という表現ができるのではないだろうか。
どちらが自分たちにとって『都合の良い幅』でサッカーをするか。

細かいパスワークで中央を突破したいスペイン、そのスペインをワイドに振り回してサイドから突破をしたいイタリア。そのせめぎ合いが試合全体を通して繰り広げられたように思う。

そしてもう一つのキーワードは、『消耗をいかに抑えるか』だろう。試合が行われたフォルタレーザは気温と湿度が高く、運動量を上げるには厳しい。なおかつ延長戦による120分の戦いを想定し、さらに勝ったとしても中2日で決勝のブラジル戦に挑まなければならない。消耗を抑えることも、当然、キーワードの一つになる。
幅と消耗。この2つを抑えつつ、試合を振り返りたい。

120分を終えてボールポゼッション率はスペインが53%、イタリアが47%。敗れたとはいえ、イタリアにとっては上々の試合だった。

以下はスペインのシステムだ。

スペイン代表がバルセロナと大きく異なるのは、両ウイングのシルバ、ペドロのポジショニングだ。バルセロナは前線にボールが入るまでは両ウイングがタッチライン際に開いて幅を広く取り、センターフォワードのメッシが下がって縦パスの受け手になる。

しかし、スペイン代表の場合は両ウイングがどんどん中央に入って縦パスの受け手になり、逆にセンターフォワードのF・トーレスはあまりそのような仕事をせず、相手の最終ラインに張っておく。
そしてスペインは中央に人数をかけて突破をねらい、空いたサイドには後ろからサイドバックが上がって幅を作る。これが基本的な特徴だ。

一方、以下はイタリアのシステム。

イタリアは2012年欧州選手権の初戦、スペイン戦で用いた3バックをこの試合でも用いた。ただし、中央の配置は少し違う。欧州選手権ではピルロ、デ・ロッシ、モッタ、3人のボランチを中央に並べ、前線を2トップとする3-5-2を組んだが、この試合ではピルロとデ・ロッシの2ボランチで、前線を1トップ2シャドーとする3-4-2-1システムに変形した。

イタリアがこのような形に変更したのは、バロテッリを欠いたことで戦術『バロテッリ』が不可能になったこと。そしてスペインの中盤の変化に因るところが大きいだろう。

今大会、シャビ・アロンソを欠くスペイン代表は元々のダブルボランチから、ブスケツ1人をアンカーとしてその前にイニエスタとシャビを並べる、すなわちバルセロナと同じ中盤の配置になっている。

プランデッリのねらいが
的中した前半戦

この新しい配置の隙を突くために、イタリアは3-4-2-1システムを用いたのだろう。攻撃に関してはイタリアのねらいがよく機能したと思う。ゴールキック時には3バックの両サイドがペナルティーエリアの横にまで下がり、ブッフォンからのパスを受ける。そしてスペインがプレスをかけてきたら、両ウイングハーフへのサイドチェンジ、あるいはシャビとイニエスタの裏に位置するマルキージオかカントレーヴァへ縦パス。ブスケツ1人では2人をマークすることができないため、この選択肢が有効に作用した。

おそらく、スペインが初戦のウルグアイ戦ほど積極的に、前線からプレスをはめ込んだら、イタリアは日本戦のようにもっとミスが出たかもしれないが、前述したように、この試合は『消耗を抑えること』がキーワードの一つ。おそらくプランデッリ監督はそこまで計算し、戦術を組み立てたのではないだろうか。

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居酒屋サッカー論 ~誰でもわかる深いサッカーの観方~

清水英斗

「ボールだけを見ていても、サッカーの本当の面白さはわからない!」日本代表戦や欧州サッカーなどを題材に居酒屋のサッカー談義を盛り上げる「サッカー観戦術」を解説します。「サッカー観戦力が高まる」の著者、清水英斗さんによる、テレビ中継の解説...もっと読む

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kaizokuhide 【06/30 18:23まで無料 】 5年以上前 replyretweetfavorite

tanayuki 「南アフリカで実現しなかった対戦がついに目の前で行われる。正直、興奮を抑えきれない」 5年以上前 replyretweetfavorite

ikedashoten 2本同時更新です! 【06/30 13:01まで無料 】 5年以上前 replyretweetfavorite