飛行機での移動中
隣に座ったのは…?
コンフェデレーションズカップもいよいよ大詰めだ。準決勝はブラジルとスペインがそれぞれ勝利を収め、決勝戦を待つのみとなった。今回は大いに盛り上がった2つの準決勝を振り返りつつ、フィナーレに対して気持ちを高めていこうと思う。
その前にこぼれ話をひとつ。26日、僕はベオオリゾンテで準決勝のブラジル対ウルグアイの取材を終え、翌朝にはもう一方の準決勝、スペイン対イタリアが行われるフォルタレーザへ向かった。
日本代表が敗退した後も、ザッケローニ監督が視察のためにブラジルに残っていることは知っていた。そして空港のターミナルの様子で、フォルタレーザ行きが偶然、監督一行と同じ便になったことも分かった。しかし、乗ってからびっくり仰天。まさか偶然、僕のとなりの席がザッケローニ監督になるとは。
ビジネスクラスの設定がない国内便、さらに監督一行も敗退が決まってから急きょチケットを取ったため、座席が固まらず、全員がバラバラに座っていたようだ。
後から乗り込んできた同業のライターは、僕とザッケローニ監督が並んで座っているのを見て、思わず吹き出しそうになったらしい。無理もない。その絵面は自分が想像しても可笑しい。通路側に座っている監督に「トイレに行きたい」の一言が言いづらいなと思ったが、近距離の移動だったのでそれは杞憂に終わった。関係ないが、その日は待ち時間にスマートフォンで麻雀をやっていたら国士無双を上がるなど、なんだか全体的に引きの強い一日だった。
さて。そんなことより準決勝、ブラジル対ウルグアイと、スペイン対イタリアを振り返っていこう。結論から言えばこの2試合は、世界の覇権を争うブラジルとスペイン、両チームの『長所と弱点』を改めて浮き彫りにする内容だった。
ブラジル対ウルグアイは
息詰まる『銃撃戦』だった
ブラジル対ウルグアイ。2-1で辛うじてブラジルが競り勝った試合だ。序盤のウルグアイのPKが決まっていれば、もっと違う展開もあり得たかもしれない。
率直に言えば、この試合の観戦は疲れた…。ブラジル滞在も終盤に近づき、じわじわと疲労が蓄積されているところに、このテンションの高い試合だ。ちょっと勘弁してほしい。
一言で表すなら『銃撃戦』。うかつなプレーをすれば、あっという間にカウンターで仕留められる。どんな偶然も、どんな事故も言い訳にはならない。流れ弾のすべてを避けなければならないような緊迫感。見ているこちらも、まばたきができない。一瞬も気を抜けない。
衝撃的だった。Jリーガーや日本代表の選手が一生懸命にプレーしていないとは全く思わない。しかし、これほどの集中力、まるで生きるか死ぬかの猛獣のせめぎ合いのようなプレッシャーを、日本サッカーではなかなか味わうことができない。それはスタジアムの熱気が後押しする部分もあったかもしれないが…正直に言えば、ショックのほうが大きかった。
個人の動きを見ても、まるでボクサーのフットワークを彷彿とする出足の鋭いプレッシング。狩るべき獲物がどの方向に逃げても、小刻みにステップを踏んで追撃し、決して逃さない。日本も岡崎慎司ならばこのレベルの寄せが出来ているが、全員の平均値で言えばウルグアイの球際のクオリティーのほうが高いのは明白だった。
彼らはこのような強度の高い試合を続けることで、個の力を成長させてきたのだろう。日本のサッカーに関わるすべての人々が観戦し、何かを感じるべき試合ではないか、そのように感じた。
この試合を視察したザッケローニ監督にも、日本サッカーに対する提言、苦言、何らかのメッセージを出して欲しいと思う。なにせ「インテンシタ」と記者会見で言っただけでインテンシティー(プレーの強度)がYahooトピックスに何度も登場するのだから、やはり代表監督の一言は重みが違うのだ。ぜひ、やってほしい。
そして、戦術的な面で言えば、ウルグアイはブラジルに対する有効な戦術の一つを示したのではないだろうか。
なぜ、ウルグアイは
ボールポゼッション率36%で
主導権を握ることができたのか?
ボールポゼッション率はウルグアイが36%、ブラジルが64%。しかし、この試合の主導権を握ったチーム、すなわち意図した通りに試合を運んだのはむしろウルグアイのほうだろう。試合を見た人全員がそのように感じたのではないだろうか。
高いポゼッション率という『数字』と、試合の『印象』は、なぜ乖離するのか? そこにはチームスタイルの本質が大きく関係している。
実力が拮抗しているとき、つまり本気でなければ勝てない対戦では、どちらのチームも勝つために真の姿を表す。ブラジルとウルグアイは、本質的にはどちらも『守ってカウンター型』のチームだ。ブラジルに関しては意外に感じる人が多いかもしれない。魅惑的なテクニックと、高いボール保持率にだまされがちになるが、実際にはブラジルのパスワークによる打開はたいしてうまくない。下手くそだ。下手は言い過ぎかもしれないが、一流のスペインなどに比べると雲泥の差がある。この前提を理解しているか否かで、ゲームの見方が大きく変わるのではないかと思う。
ブラジルのシステムは4-2-3-1。
象徴的なのは、ボランチのパウリーニョとグスタボだ。ブラジルはスペインのように攻撃の基点を中央に置くのではなく、ボール奪取力に優れ、バランスを取る守備的なタイプをボランチに置く傾向がある。そしてサイドハーフ、サイドバックに攻撃的な選手を置き、サイドに基点を作って仕掛けていく。これがセレソンのスタイルだ。
パウリーニョとグスタボは良い選手だが、ボールを持ったときにプレッシャーをかけられるとサイドに逃げるしかない。もちろん、フリーならば正確にパスをつなげるし、ロングパスの精度も高い。しかし、彼ら自身が動きながら相手のプレッシャーを外せるかといえば、その点ではあまり質が高いとは言えないのだ。それに関してはむしろ、遠藤保仁や本田圭佑、香川真司など日本代表のほうが上回っているだろう。ブラジルはボールを持ってはいるが、そのパスワークで相手の守備を外すという質はない。打開の部分は結局、サイドからの個の力だ。
ブラジルのへそに位置するボランチの2人がそういうタイプなのだから、ブラジルの攻撃パターンは中央が基点になりづらく、サイドからの個人技を生かした遅攻、あるいはカウンターからの速攻。この2つに自然と絞られるようになる。
バリエーションの少ない攻撃には、守備側も対策を立てやすい。ブラジルのパターンを読み切り、徹底的に防いだのがウルグアイの戦術だった。
ウルグアイが用いたシステムは、中盤の底にアンカーを置く4-3-3。