“神の遺伝子を持つ者”をさがす鍵は四王朝説にあり

【第12回】
コーカサス地方から世界中へ拡散したF家系の子孫から、J家系の“魚座の救世主”イエス・キリストが生まれた。日本へたどり着いたO家系から“水瓶座の救世主”が現れるのか? 鍵を握るのは日本の皇統は三度に渡って交代が行われたとする四王朝説である。

究極の伝奇ロマン&暗号ミステリー!

日本には神武、崇神、応神、継体の四王朝が存在した!?


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神の遺伝子はコーカサスでF家系の人々の中に生まれた。
やがてF家系の人たちは神の遺伝子を持った男の指導で極めて高度な文化を誇る集落を作り上げた。最後の氷河期が終わり、海水面が上昇を始めたころである。

ある日大洪水に襲われる。

地中海から怒濤の如く流れ込んだ海水が黒海から溢れ、コーカサス地方に大洪水を起こしながらカスピ海に流れ込んだ。

離散したF家系の人々はそれぞれが流れ着いた土地から新天地を求めて旅立った。
J家系の人々は西南のアララト山に辿り着き、やがてメソポタミアの文化を築く。
その末裔のひとりに神の遺伝子を受け継いだ男が現れる。
それが魚座の救世主イエス・キリストだった。

そして今また、F家系の末裔の中に神の遺伝子を持った子供が生まれた。
今度はJ家系にではなく同じF家系の末裔であるO家系に誕生したのである。
それが日本の弥生人の子孫として生まれた水瓶座の救世主である。


菜月は自分の考えをざっとまとめてみた。
黙って聞いていた渡辺准教授は、

「そこまで辿り着いたのは偉い!」

と菜月の頭を撫でた。
見ていた鈴木はびっくりしたが、菜月がそれほど嫌がっていないことにまたびっくりした。

「日本の正史は古事記と日本書紀、所謂(いわゆる)、記紀と呼ばれるものだが、そこには天皇家が万世一系、つまりは神武天皇以来ひとつの男系家系で繋がっていると書かれている。だがそれを信じている歴史学者はいない。どのような国であろうが王朝交代のなかった歴史など考えられないからだ。そこで登場したのが四王朝説」

「四王朝説?」

「そう、これまで四つの王朝が日本に存在したとする説。神武、崇神、応神、継体の四王朝。記紀は継体王朝が確立してからしばらくして、大化の改新も終わり、藤原家が権力を掌握した後に書かれた」

「私たちが習った日本の歴史は藤原家が書いた継体王朝のための歴史だっていうこと?」

「まあ、おおざっぱに言えばね」

「それ以外に三つ王朝があったの?」

「記紀はそれぞれの王朝の始祖となる天皇に神の字を付けることで区別できるようにしている。神武、崇神、応神の三つ。継体王朝は現在まで続く天皇家の始まりだが、応神王朝から譲位されて確立した王朝だから神が付かない」

いつもの渡辺節だった。つい、引き込まれる。

「ポイントになるのは、なぜ藤原家がわざわざ万世一系などというバカげた話を作らなければならなかったか」

「なるほど、どんな国でも新しい王朝は自分たちの滅ぼした王朝を美化したりしませんからね」

納得したように、鈴木は首を何度か縦に振った。

「考えられる理由はただ一つ、天皇家と藤原家が絶対的な権力を掌握した奈良時代の王朝が、神武王朝の復興であったから」

「なるほど、だから、神武王朝からずっと国が続いている、つまりは万世一系という形が欲しかったのね」

菜月も説得されていた。

「問題は、古代中国で漢字を作り上げたことで有名な商王朝の神官、尹佚(いん いつ)の直系子孫が神武王朝の成立にかかわっているらしいこと」

「どういうこと?」

菜月は納得のいかない顔をした。

「白川静を知っている?」

「誰?」

「漢字の大家」

「知らない」

「日本はもとより中国でも第一人者とされている漢字の専門家。もう亡くなったけど」

「へえ、そんな人がいるの」

渡辺は椅子に座り直した。

「彼によると、漢字を創りあげた商王朝は神権政治の王朝で、漢字はその祭祀の礼のために創られた図形を始まりとしているという。そして、漢字を創った最高位の聖職者が尹(いん)で、この漢字は天と地を結ぶ杖を持っている形の象形文字であったという。そして、その読みがYin」

「なるほど椎名学長の話していた日本語にはなくなってしまった神聖な音から始まっているということね」

菜月の言葉に渡辺が大きく頷いた。
構わず渡辺は続けた。

「そして、白川静は、日本の天皇家の祭祀が商王朝から引き継がれたものであると断言している」

「天皇家は中国系なの?」

「人類はすべてアフリカから渡来してきた人々だからその時々のことで区切ることは不可能でしょ」

「でも漢字を作った中国古代王朝の子孫なの?」

「少なくとも、その神官家の直系子孫が日本の建国、つまりは天皇家の祭祀の確立に関与していたということ」

「よく判らない」

菜月が怒っているような口調で言った。
口を開き始めた渡辺を制するように掌を翳しながら、

「ちょっと待って、纏めてみるから」

と、菜月が言った。

「漢字を創った国家で、漢字を創った人が、自分で自分の名前にした文字が、天と地を結ぶ杖を持っていることを表す文字で、その読みに神聖な音Yを使った」

「正解!」

渡辺は子供をあやすように手を叩いて見せた。

「つまりは、最初から何らかの意図を持って、名前を決めたということね」

「その通り。自分たちで漢字を作っているのだから、なんでもできる」

「そして漢字を作った最高位の聖職者が日本の建国に関与している」

「そのとおり!」

渡辺は、また、「偉い!」と菜月の頭を撫でた。
不満げな菜月をよそに、渡辺は持論を続けた。

「ここで重要なことは尹の文字が北極星を中心として回る小熊座の象形文字であること」

渡辺はデスクトップのモニターに小熊座をつくる七つの星を映し出して見せた。
画面を見ていた鈴木は、はっとした。

「もしかすると、神聖な七つ星とは小熊座のことなのかもしれないですね」

と、吐き出すように口を挟んだ。

「おー、鋭い!」

渡辺は感心して体を乗り出した。

「その通りなんだ。古代エジプトでは人間の生き死には魂が口から出入りすることで決まると考えられていたが、その祭祀を仕切るのがアヌビス。ジャッカルの姿をした神。彼が使う魂を出し入れする道具は、小熊座を象(かたど)ったものであることが知られている」

「なるほど、生命を司る神聖な七つの星。それが黙示録ではキリストの七つ星として記載され、商王朝の尹という漢字になった」

鈴木の独り言のような言葉に渡辺はまた大きく頷いた。

「その通り、もともとそれは神の遺伝子を持った子供の証となる掌のサインを意味するものだった」

渡辺の満足げな顔を見ながら菜月は何となく逃げられたような感覚に襲われた。
それでも、説得力はある。

「みんな繋がっているんだ」

菜月がため息をつくように言った。

「多分すべてがコーカサスから始まっているのだろうな」

「ハプロタイプFですか」

「大洪水から逃れたF家系の末裔のうちJ家系の人たちがメソポタミアの文化を作り上げた頃、O家系の人たちは古代中国で商王朝を建て、漢字を創生した。エンキの名もYinの名も、もともとはF家系で呼ばれていた神聖な名前がJ家系とO家系に受け継がれる間に訛って変化したものなのかもしれない」

「神の遺伝子」

「そう、両方ともF家系から神の遺伝子を受け継いだ天才的能力の持ち主によって可能になった高い文化の創生だった。そして、神の遺伝子を受け継いだものがYから始まる名前で呼ばれていた」

「そのY染色体が日本の天皇家に伝わっているということ?」

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神の遺伝子

中田力

“神の遺伝子”をさがす謎の中東系の男と米国人記者に始まる連続殺人事件。若き遺伝子学者・高山菜月は、FBI捜査官の日系人・鈴木とともに二つの謎を追いかけていく。Y染色体ハプロタイプ分析から導かれる人類の歩み。日本古代史の謎。そして救世主...もっと読む

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