お腹が空いた」は独り言じゃなくて、提案だ。

言葉が口をついて出たとたん、自分は「送り手」になり「受け手」をつくる。そして、すべては、自分が「~したい」と「~して欲しい」という提案だ。「お腹が空いた」「明日は寒いって」 「好きだ」 「二度と来るな!」「今日は残業できません」。だから、当然、受け手に拒絶されることも……。話題の書、『伝わるしくみ』から特別連載です!

『伝わるしくみ』山本高史
マガジンハウス 



送り手と受け手

 うまく伝わらない原因❶として、「受け手という存在を認識・理解していない」と書いた。それをまず具体的に明らかにしてみようと思う。
 ぼくはその説明を「言葉のメカニズム」という理論を通して説明したい。

 言葉は情緒的なだけではなく、実に機械的ともいえる作用を持っている。
 普段はなかなか意識しないことだが、独り言や寝言やノートの落書きでもない限り、言葉を発すれば必ず「受け手」をつくる。それと同時にそんなつもりはなくても言葉を受けられた以上、自分は「送り手」である。

 この「受け手」と「送り手」という概念は、あらゆるコミュニケーションにおいてついてまわる。メールであろうが、プレゼンテーションであろうが、口説き文句であろうが、「受け手」と「送り手」はコミュニケーションの両端に必ず存在するのである。

 しかしプレゼンテーションや講義・講演ならともかく、「送り手」には「受け手」が常に意識されているわけではなさそうだ。だから言葉はうまく伝わらず、さらには不用意な発言となり、謝罪が謝罪にならず、SNSは炎上する。

言葉は提案である

「話す」と「聞く」、「書く」と「読む」という関係をイメージすると「送り手→受け手」という構図が簡単に思い浮かぶと思う。
 話している人がいて、その言葉を聞いている人がいる。書いた人がいて、その言葉を読む人がいる。送り手から発された言葉は、受け手に届いているということだ。

「お腹が空いた」
「明日は寒いって」
「好きだ」
「二度と来るな!」
「今日は残業できません」
「桜が咲いたね」
「この件は進めるべきだと考えます」
「今だけ半額!」
「次の新宿行きの各駅停車は5番線から発車いたします」
「だいじょうぶ?」
「ありがとう」
「ごめんなさい」

人はさまざまな言葉を受け手に送る。

 言葉は用途や種類、想定されるストーリーやシーンも数限りない。しかし限りあろうとなかろうと、言葉は一つの例外もなく「送り手→受け手」というシンプルな構図を持っている。
 そして送り手は受け手に「提案」していると考えることができる。

  その構図がどういうものなのか、提案とは一体どういうことなのか、「腹へった」を分解してみる。

 その「腹へった」という言葉が独り言じゃないとすると、ある受け手が存在している。つまり「送り手→受け手」が形成されている。そしてその「腹へった」は、意味もなく発せられるものではないはずなので(もし食欲がなければ、その言葉は出てこない)、ある一定の状況におけるものであると考えるべきだ。具体的には昼メシ前のオフィスとか、夕方の家のリビングとかの状況があって、「腹へった」はある受け手に対して発せられたと考える。

 ではその「腹へった」の意味を分解してみるとどうなるか。
 送り手の言葉は、受け手に「提案」していると考える。「腹へった」と言葉を送るのだから、彼(もしくは彼女)は何かを食べたいと思っている。そこが昼メシ前のオフィスだとすると、ある人が同僚に対して「腹へった」という言葉を送るということは、「腹へったんだけど、そろそろ昼メシ行かない?」を意味していると考えるのが自然だ。

 どうやら「腹へった」の送り手は言葉を伝えることによって、受け手を自分の望む方向(一緒に昼メシに行く)へ動かそうとしている。
 つまり、送り手の言葉は受け手への「提案」に他ならない。

「ぼくはお腹がすいたのでそろそろ昼メシに一緒に行かないかと提案するのであるが、あなたはそれに賛成してはどうか」と読むことができる。

 そう考えると「二度と来るな!」は「私はあなたが二度とここに来て欲しくないと提案しているのであるが、あなたはそれに従ってはどうか」となり、「この件に関しては進めるべきだと考えます」は「この件は進めるべきだと提案するのであるが、あなたはその提案を受け入れてはどうか」ということになる。
 なんらかの仕事での発言ならば、「この件に関してはぜひ弊社に進めさせていただきたいのですが」という明らかな提案となる。

「明日は寒いって」が家族の会話の中でのものだとすると、例えば母親が娘に「明日の朝は寒いらしいから、それに対応した服装で出かけなさいね」と提案しているシーンも思い浮かべることができる。

 店頭に「今だけ半額!」と掲示されていれば、「当店では今だけ半額にするのでぜひこの機会に買ってみてはどうでしょう」という提案である。

「ごめんなさい」ならばその言葉の理由の軽重はいろいろあろうが、「私はごめんなさいと謝るのだからこれで許してくれたらどうか」と提案しているのだ。

 しつこいがもう少し。

「月曜日はどうかな?」ならば「会うのは月曜日がいいと提案しているのであるが賛成してはどうか」。「月曜日は無理だ」ならば「月曜日は無理なので他の日にする(もしくはとりあえず今回の約束は流す)ことを提案しているのであるが賛成してはどうか」。
「今週は無理だ」ならば「来週以降にしてくださいと提案しているのであるが理解してはどうか」。

言葉は欲望を提案している
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