私が夫のことをあえて「旦那さん」と呼ぶ理由

小説家の森美樹さんが自分自身の経験を交えながら、性を追及し、迷走する日々を綴るこの連載。今回は恋人や結婚相手の「呼び方」についてのお話です。対等な関係を示す「パートナー」という呼称が普及しつつあるなか、森さんは夫のことをあえて「旦那さん」と呼んでいるそうです。そこには、「呼び名は自分のためのもの」という森さん独自の考えがありました。

ここ数年、自分の夫や妻、彼や彼女の呼び方について物議を醸し出しているようだ。先日、ネット上で「職場のデキる女性が自分の夫を『主人』と呼んだ時、落胆して尊敬の念もなくなった」みたいな記事を見て、私は苦笑してしまった。記事の主旨としては「デキる女性としては、主従関係を連想させる形容は使わないでほしい」ということだろう。一理はあるが、尊敬の念がなくなるほどの問題だろうか。もしかしたら『主人』と呼ぶプレイを自分に課しているかもしれないし、夫=主人にかしづく自分が好きなだけかもしれない。いずれにしても、呼び名は呼ぶ人の勝手であって、第三者がジャッジするものではない。

私はあえて旦那さんと呼ぶ

と、よその方を棚に上げておいて、今まで私個人としては夫や妻、彼や彼女を「パートナー」と呼ぶ人が好きではなかった。なんとなく、いけすかないな、偉そうだな、と思っていたのだ。これもまた私の想像力のなさというか、頭の固さだなと恥じている。

私自身は夫のことを旦那さんと呼ぶけれど、これは「人として夫を尊重しよう」という戒めがあるからだ。性格が悪い私のこと、放っておくと夫を奴隷のように扱ってしまう懸念がある 。ゆえにあえて旦那さんと呼び、日々、自己鍛錬に励んでいるのだ。

しかし近年、親密な付き合いをしている方を「パートナー」としか呼べない人々が増えている(「相方」「連れ合い」「恋人」など、性別を特定しない呼び方も含む)。LGBTの方々だ。なるほど、呼び名ひとつにしても様々な事情があり、歴史があるものだ。

先程私が言った「『主人』と呼ぶプレイ」も「夫=主人にかしづく自分が好き」も、「夫=旦那さんと呼ぶことで自分を戒めている」も、すべて自己をコントロールする術ではないだろうか。そう、呼び名は相手のためではなく自分のためなのである。

普段使いの物言いはとても重要

男女平等を掲げつつ、まだまだ不平等な点があるから、女性側が、主人、旦那様、と呼べば「なぜ自ら女を下げるような言動をするのだ」と憤慨する方々がいるかもしれないし 、男性側が、嫁、家内、と呼べば「何を上から目線で」と侮蔑する方々もいるかもしれない。一理あるし、言葉はサブリミナル的に脳味噌にこびりつくものだから、普段使いの物言いはとても重要だ。

植物ですら「今日も可愛いよ、緑具合が冴えているね」などと声をかけて育てれば生き生きするし、『ありがとう水』が流行ったようにペットボトルに“ありがとう”と記したり、ミネラルウォーターに「ありがとう」と感謝して飲めば味が変わるのである(らしい)。

なので、パートナーパートナーパートナーと呼び続ければ、本当にパートナーと同等になるだろうし、いい変化も見られるかもしれない。 とはいえ、「パートナーと呼ぶ党」とか、妙な政党やルールができるのも困る。だって私はやっぱり、旦那さんと呼びたいから。主人と呼ぶ人は、その方が都合がいいからそうしている。職場での立ち位置もあるだろうし、三歩下がって師の影を踏まず、みたいな自分に酔っている場合だってある。皆それぞれ、事情というか好みがあるのだ。

私の旦那さんはどうかというと、外やSNSでは私のことを嫁さんとか妻と言っている。 私はこれに満足しているし、嫁とか妻と言ってもらうと、結婚している自分としての役割を改めて意識できて好都合だ。これがたとえばお子様がいる女性だと、事情はまた異なるだろう。誰々ちゃんのお母さん、この呼び名に満足できる方とできない方がいる。私には名前があるのよ!みたいな主張だ。これはきっと承認欲求の裏返しだ。

「今日も一日、誰も私の名前を呼ばなかった」

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アラフィフ作家の迷走性活

森美樹

小説家の森美樹さんは、取材や趣味の場で、性のプロフェッショナルや性への探究心が強い方からさまざまな話を聞くのだそう。森さん自身も20代の頃から性的な縁に事欠かない人生でした。47歳の今、自分自身の経験を交えながら、性を追及し、迷走する...もっと読む

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コメント

moto_matsu いろんな考え方があるものですね。> 2年弱前 replyretweetfavorite