東日本大震災で「往復3メートル」揺れた大阪の55階

国民の半数が被災者になる可能性がある南海トラフ大地震。それは「来るかもしれない」のではなくて、「必ず来る」。関東大震災の火災、阪神・淡路大震災の家屋倒壊、東日本大震災の津波。その三つを同時に経験する可能性がある。首都圏を襲う大地震も懸念される。
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「地域係数」の問題点

 熊本地震では建築の「地震地域係数」という考えが一部で問題になりました。これは建物の構造設計時に想定する地震の揺れについて、一般的な地域を「1・0」とした場合、あまり地震が来ないと考えられる地域は「0・9」や「0・8」をかけて、地震の揺れを低く想定してもよいことになっています。
 建築基準法の制定以来、当時の建設省が段階的に定めていきました。現行では北海道や東北の太平洋側から関東、東海、近畿の大部分は「1・0」ですが、北海道・東北の日本海側や中国、四国、九州のほとんどは「0・9」か「0・8」。さらに沖縄は「0・7」になっています。1979年以前は九州は一律「0・8」でした。沖縄は返還に関わる特殊な事情もあって小さな値になっています。
 熊本は県内全域が「0・9」か「0・8」だったにもかかわらず、熊本地震の直撃を受けました。市庁舎が全壊した宇土市は「0・8」でした。
 福岡県西方沖地震が起きた福岡も「0・8」です。南海トラフ地震の被災地・高知の地域係数が「0・9」なのも気になります。
 地域係数は、繰り返し起こる海溝型の大地震を念頭に置いて設定されていますので、めったに起きない内陸の活断層による地震の影響は低く見積もられています。
 大地震の後でも頑張らないといけない庁舎建築では、活断層の多い地域ではむしろ地域係数を大きくするべきですが、「0・9」や「0・8」の地域では庁舎建築も耐震性の低い「お得」な建物の設計を許してきました。熊本地震ではそんなツケがあらわになったと言えるのですが、いまだに根本的な見直しはされていません。
 しかし、地域係数は氷山の一角のようなもの。こんな合法的な抜け道は探せばいくらでもあります。

 建築基準法は建物の高さが「31メートル」や「45メートル」、「60メートル」を境に耐震基準が厳しくなります。だから、コストを重視する人はその寸前の「30・5メートル」や「44・5メートル」、「59・5メートル」ぐらいの建物にしたがります。
「30・5メートル」は普通のマンションならちょうど10階建ての高さ。つまり10階建てのビルを、最新の技術を使ってギリギリにつくると、想定を超えた地震が来るとちゃんと壊れてしまうことになるのです。

「ハンムラビ法典」の教え

 建築基準法は、あくまで建物に対する最低限の規定です。前に書いた地震地域係数のような多少の差はありますが、日本中どんな場所に建っていても、設計で考える建物の揺れは基本的に変わりません。堅い地盤の上でも軟らかい地盤の上でも、同じ建物の揺れを想定して建物が建てられています。
 昔の役所の建物は良い地盤に建った壁の多い建物が普通でした。この時期は技術もなかったので、構造計算をするときに壁は計算外にして、柱だけで安全性を確認していました。ですから、壁がある分だけ余裕がたっぷりでした。一方で、今は技術が発達したので、壁の耐力をしっかり見込んで計算をしています。昔の建物は壁が多く、中低層でいかにも硬そうな建物でした。昔と今、本当の実力はどちらが上でしょうか。
 私が住んでいる愛知県では、帝冠様式の築80年余の愛知県本庁舎と名古屋市本庁舎が並んで建っています(帝冠様式というのは昭和初期の公共機関の庁舎に用いられ、ビル頂部に城のような瓦屋根を配置しています)。威風堂々とした壁っぽい二つの建物は、この地域を襲った1944年の東南海地震の揺れを見事にくぐり抜けました。
 科学が発達すると、自然を克服したと誤解して自然の怖さを忘れがちになり、安全性がおろそかになることもあります。技術の発達が、安全性よりもコストカットに使われれば、バリューエンジニアリングは、大きな矛盾と危険をはらんだ思想にもなります。

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次の震災について本当のことを話してみよう。

福和伸夫

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r28 「長周期の揺れを増幅しやすい大規模な堆積平野の上に、私たちは高層ビルを好んで建ててしまいました」 11ヶ月前 replyretweetfavorite