脳は、なぜ「いい人」を演じてしまうのか #1

「いい人」をやめる脳の習慣』(著・茂木健一郎/学研プラス)の刊行記念として、cakesでは、著者・茂木健一郎さんのインタビューを緊急配信します。第1回は、脳はなぜ「いい人」を演じでしまうのかをテーマにお話を伺います。 (構成/文:福島結実子/撮影:干川 修)

茂木 健一郎(もぎ けんいちろう)/1962年東京生まれ。東京大学理学部、法学部卒業後、東京大学大学院理学系研究科物理学専攻課程修了。理学博士。脳科学者。理化学研究所、ケンブリッジ大学を経て現職はソニーコンピュータサイエンス研究所シニアリサーチャー。

—茂木先生の考える「いい人」の定義って、簡潔に言うと、常識や規範、世間体をすごく気にして生きる人、っていうことになるんでしょうか。

茂木健一郎(以下、茂木) そうですね。自分を殺して、社会に漂っている「こうであるべき」「こうするべき」的な規範に自分を合わせている人です。自分軸ではなく、他人軸で生きている人、といってもいいかな。

—先生自身は、もう「いい人」じゃないんですね?

茂木 うん、僕は「いい人」ではないですね。たとえばツイッターでも、自分がこうだと思うと「誤解されたらどうしよう」なんて考えずに、すぐツイートしちゃう。だから、それでプチ炎上したりしてますし(笑)。

—どうして、「いい人」をやめることができたんでしょう?

茂木 これまでちょっとずつ、練習してきたんですよね。思えば小学校のころからかな。入学したての1年坊主なのに、3年生にたて突いてみたり。いまとなっては、かなりキャリアを積んで、炎上慣れしているというか。
一度「いい人」をやめようと決めると、人間関係の摩擦くらいじゃダメージをくらわないんです。炎上することも“かすり傷”という感じで生きてますね。

—小学校のころからとは、筋金入りですね。あれこれ言われても気にしないんですか?

茂木 いや、いちおう気にはするんだけどね(笑)。でも、悪いことばっかりじゃないんですよ。たとえば不思議なんだけど、「いい人」をやめたほうが濃い仲間ができるんです。

—濃い仲間ができる……どういうことですか?

茂木 たとえば僕は「偏差値入試はやめたほうがいい」とか、教育問題について思ったことを率直に発言しています。そうすると、偏差値教育からドロップアウトしたような人たちが僕に賛同してくれたり、慕ってくれたりするんですね。「この人はわかってくれている」って、昔から強い絆があったみたいな感じで。
そういうことは、小学校時代からたびたび経験していますね。上級生にたて突いたときなんかも、ほかの上級生や同級生から「おまえ、なかなかやるな」なんて言われて、仲良くなったりして。

—「いい人」をやめると、本当の仲間ができるんですね! でも、そう言われると多くの人は戸惑うかもしれません。実際には、無理してでも「いい人」でいるほうを選んで、なんとかして人とのつながりを保ちたい、嫌われたくないって思っている人が多いように思うんですけど。

茂木 「いい人」でいれば安全だって考えるのは、単なるリスクヘッジでしかないよね。被害を最小限に食い止めることであって、そこからは何も生まれないでしょう。

—やめたほうが、人間関係って生産的なものに変わるんですね。

茂木 そうですよ。周囲を見回して「みんな仲間だよね!」って言いながら、じつは人間関係が薄かったりするでしょう?
でも自分の思ったことを発信していれば、本当に心が通じる人たちと、強い絆ができる。周囲に迎合していない人間同士って、かえって結びつきが強くなるんです。「悪そうな奴は大体友達」ってDragon Ashの歌があるけど、あんな感じ(笑)。

「いい人」たちが乗っているのは
「ぎゅうぎゅう詰めの満員電車」


—さっき、炎上しても気にしないわけじゃない、と伺いましたけど、思ったことを言うのって怖くないですか?

茂木 うーん。何と言われようと僕の意見は変わらないから怖くはないですね。どちらかといえば、文句を言ってくる人たちのほうが僕は心配になっちゃう。

—え! なんでですか?

茂木 たとえば、僕が「2020年のオリンピックイヤーに向けて外国人観光客が増えてくるのに、タトゥーを理由に彼らを日本の温泉やプールに入れないのはおかしい」なんて書いたりすると、「親からもらった身体に傷をつけるのはよくない」とか「日本だと刺青=ヤクザだから怖いんだ」とか、もう、いろいろ文句を言ってくる人たちがいるわけです。
たしかに日本だと、刺青は反社会勢力の象徴だから絶対ダメ、みたいな背景はあるけど、そんなことは外国の人たちに関係ないですよね。「身体に傷をつけるな」うんぬんに至っては、その人個人の価値観の問題なわけで、やっぱり外国の人たちには関係ない。

—そうですね。で、そうやって文句を言ってくる人たちが心配だと……?

茂木 おそらく彼らは、ふだんから無理して「いい人」でいようとしている人たちなんですよね。

—「いい人」でいたいから、文句を言ってくるんですか?

茂木 だって、もし普通に幸せに暮らしていて、何も苦しいことや辛いことがない人だったら、わざわざ他人のツイートに文句なんて書かなくないですか?

—言われてみれば、そうですね。

茂木 だから文句を言ってくる人を見ると、社会の常識を守らなくちゃとか、規範がとにかく大切だとか、そういう固定観念でがんじがらめになっている人が「助けて」って言ってるように感じちゃうんです。ああ、よほど我慢してるんだろうな、って。

—ふだん我慢しているから、我慢してない人のツイートを見ると文句をつけたくなっちゃうんですかね。

茂木 うん、なんというか、「いい人」がみんなで満員電車に乗っているようなイメージ。ぎゅうぎゅう詰めで、つり革につかまって、我慢している感じです。で、「いい人」をやめた人が乗っている電車は空いてるんですよ。おお〜、快適だな〜って(笑)。
「いい人」をやめると、もう我慢しなくていいから、すごく生きるのがラクになるんです。炎上以外はね(笑)。

次回は、明日12月5日公開予定です。


(構成:福島結実子/撮影:干川 修)

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この連載について

茂木健一郎 「いい人」をやめる脳の習慣

茂木健一郎

「いい人」をやめると、脳がブルブル動き出す! 他人の目に意識を向けず、自分のために脳を働かせれば生きるのが驚くほどラクになる。 ムダな我慢をあっさり捨てて、自分の人生を充実して生きるための茂木式・ポジティブ人生操縦法!

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コメント

lampscope ドル好きの中でたまに見るやたらと「いいファン」でいようとする人もこれと同じだなぁと思う 3日前 replyretweetfavorite

yosino_kou #いい人やめる脳の習慣 これめちゃ読みたい! https://t.co/JkLKYDO0hn 刊行記念のインタビュー記事読んで、欲しくなった。参考にどぞ! https://t.co/Th1vJO2fve 4日前 replyretweetfavorite

vhee3756 キエー… https://t.co/QY1dwz7h3W 6日前 replyretweetfavorite

chimaokun https://t.co/DbNMzlVXEr 8日前 replyretweetfavorite