食に携わる者としての使命
国内外を問わずありとあらゆる飲食店を訪れてきた大久保伸隆さんには、おいしいもの、雰囲気のいい場所のストックは数限りなく蓄えてきた自負がある。
くわえて何より、食およびそのマネジメントに関しては、前職で徹底的に追求してきた経験がある。
独立する前の大久保さんは、人気居酒屋チェーン「塚田農場」を展開するエー・ピーカンパニーの副社長だった。数多の店を大繁盛店へと盛り立て、アルバイトを含むスタッフの精神的・経済的満足に立脚した経営モデルを確立し、「塚田農場」のブランドを築いた張本人である。
当時の大久保さんが、経営者の使命として掲げていたのは要約こんな言葉だ。
「アルバイトは従業員であると同時に、お客さまである。そして、できるだけ多くのお客さまに感動してもらえる店を作る」
お客さんと直に接するのはアルバイトの人たち。彼ら彼女たちにこそ生き生きと働いてもらわねばならない。そのため大幅に権限委譲をし、仕事を任せるようにした。自分がついたお客さんに対しては、上限数百円単位ではあるが個人の裁量でサービスの品を出したりしていいこととしたのだ。
お客さんの心をつかみ、リピーターになってもらうことにも心を砕いた。来店者は「出勤カード」がもらえ、来店数に応じて「主任」「課長」「部長」「専務」と出世していき、昇進するたび肩書き入りの新しい名刺がもらえるという制度、というか遊びをつくった。「島耕作」ならぬ「鳥耕作」というサービス。これによりリピーター来店頻度が飛躍的に向上したという。
「遊び心、それはまさに余白のことですね。スタッフにもお客さまに対しても余白を設計しておいて、そこで存分に遊んでいただく。飲食店はおいしいものさえ提供できればいいんじゃないかという考えもあります。そこはもちろん基本ですが、それだけで人を完璧に満足させられるかというと、なかなか難しい。おいしいも含めて、そこで過ごす時間が楽しいものとなるよう演出するべきで、それでこそエンターテインメントとしての食が成立するはずです」
飲んだり食べたりだけではない。大久保さんは自身が手がける店を、エンターテインメントが繰り広げられる場として規定する。そうして店のファンをつくり、ファンが集うコミュニティとして、場を運営していこうという。
そこはお客さんにとってのコミュニティであると同時に、スタッフのコミュニティでもあり、さらには生産者のコミュニティとしても機能すべき場。というのが、大久保さんの思い描く「店」なのである。
なぜ緑あふれるニュータウンの駅前に?
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