小さな会社④ ミシマ社  出版社

従業員30人以下のスゴい会社大特集!モットーは、「おもしろ、楽しく!」。東京・自由が丘、そして京都・城陽オフィスからステキな本を届ける「原点回帰の出版社」。それが、ミシマ社です。内田樹さんの『街場の教育論』、平川克美さんの『小商いのすすめ」』、小田嶋隆さんの『小田嶋隆のコラム道』などのベストセラーは、すべてここから誕生しました!

POPを社員が手書きする出版社です

 「自由が丘のほがらかな出版社」と聞けば、穏やかな会社を想像するでしょう。でも、ミシマ社の作った本を手に取ったなら「何だ、この会社は?」と気になり、代表・三島邦弘さんのお話を見聞きしたならば、「この会社、普通じゃない!」と確信するはず。古い一軒家オフィスから漂うほっこり感と、「激アツ!」な表情を併せ持つ出版社、それがミシマ社です。

 ミシマ社は、もともと書籍編集者だった三島さんが、2006年に設立。人文、実用、エッセイ、料理とジャンルレスかつ独自の切り口のテーマで本を作ってきました。 

 「編集と営業は2つで1つ」。これは三島さんが常々、口にされている言葉です。出版社では本来、編集部が本を作って、営業部がそれを流通させます。が、ミシマ社の場合、三島さん率いる「編集チーム」と、ミシマ社2人目の社員・渡辺祐一さん率いる「営業チーム」に分かれこそすれ、分業はしていません。「みんなで作って、みんなで売る」。これがミシマ社の働き方なんです。


手書き is スタンダード 仕掛け屋のお仕事拝見

 なかでも注目すべきは、三島さんいわく〝世界初〞の「仕掛け屋チーム」の存在です。主な仕事は、新刊の店頭POPやパネルなどの販促物の制作。現・仕掛け屋リーダーの林 萌さんにお仕事の様子を見せていただくと、これがまたクオリティも種類も数も、生半可なものでなくて!POPは手書きが基本で、著者の顔写真が貼ってあったり、ポップアップになっていたり、なかには糸で縫ってあるものまで。これを新刊発売日に向けて約500部を量産し、書店に配っているそうです。さすがに社員だけでは手が回りきらないので、学生ボランティアの「仕掛け屋ジュニア」がお手伝い。林さんいわく、延々と作業を続けていると(マラソンにおけるランナーズハイ的な)〝ポッパーズハイ〞状態に陥るらしいです。POP作りの世界は、なかなかにストイック。 

 手書きには、「書いた時の想いや温度感が伝わりやすい」という感覚的な利点以外に、「つい足をとめて読んでしまう」というマーケティングの入口的な役目もあります。書店の手書きPOPで本の売れ行きが変わる、とはよく言われますが、これを書店員さんでなく出版社の社員自らやってしまうというのが、ミシマ社のスゴイところ。「この本を読んでほしい!」という情熱が、POPからばしばし伝わってくるんです。本を作って流通させ、読者に届ける。この一連の歯車をガチっと合わせる仕掛け屋の仕事こそ、本作りの世界に必要なことなのかも。「でも、書店員さんのPOPにはかないませんよ」と林さんは言いますが、いやいや、これはなかなかできません。というか、普通ここまでやらないです! ケトル編集部も見習わなければ、と思った所存です。

 ほかにも、新刊紹介やバックナンバー情報を記載した「ミシマ社通信」(よく、本の間に挟まっているツルツル紙のアレです)を、新刊制作ごとに作成。ミシマ社の場合はこれも手書きで、本の完成ヒストリーを漫画にしたり、著者の似顔絵(あまり似ていない)が描かれてあったり、編集後記として三島さんのメッセージが添えてあったり。11月現在(※注:本誌に掲載された2011年11月時点)で28号まで発行しましたが、初めのうちはオフィスでコピーをして、せっせと四つ折りにしていたそうで。記念すべき第1号には「12刷」と書いてあり、「ただ、12回コピーしただけなんですけどね」と三島さん。

 そして驚きなのが、「ミシマ社通信」と一緒に本に挟む読者ハガキも手書きだということ!(もちろん印刷はしてますが!)冒頭の「何だ、この会社は?」の理由の1つはココなんです。実際、林さんはこの手書きのハガキに衝撃を受けたことが、ミシマ社に転職するきっかけの1つになったそうで。1枚のハガキが、人ひとりの人生を変えてしまったというわけです。 

 そんな仕掛け屋の基盤を作ったのが、ミシマ社設立初期からの社員、木村桃子さん。元書店員で、かつて「POP名人」と呼ばれていた木村さんは、小川洋子の『博士の愛した数式』を書店POPでヒットに導いた、カリスマ書店員の先駆け的存在。結婚を機に退職後、ミシマ社に入社されました。(現在は産休中のため、お会いできなかったのが残念です!) 林さんに聞いたところ、木村さんは「自宅でもPCを嫌々持っているほどのアナログ人間」だそうで、基本的に何でも手書き。WEB「ミシマガジン」の連載エッセイは、木村さんの手書き原稿がそのまま掲載されています。思えば、松下電器(現パナソニック)の松下幸之助もピンチの時、「共存共栄」と手書きの色紙200枚を配ったわけで。手書きはいつの時代も、人の心を揺さぶるんですね。

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最高に、無駄がつまったワンテーマ・マガジン」をコンセプトとした、雑誌『ケトル』。その毎号の特集をcakesで配信していきます。第五弾のテーマは「小さけれど、スゴい会社」。こんな会社で働きたい!と思わえてくれる従業員30人以下のスゴい会...もっと読む

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