結婚するかしないかとか、そういう選択ではなく

独身、既婚、子持ち、子なし、お金持ち、貧乏、美人、不美人…。ちょっとの「違い」ゆえに、時々ぶつかる私たち。それでも、男には絶対に見出せないものが、女の友情にはあるーー。

「女友だち」の新しいカタチを描く北原みのりさんのエッセイ『メロスのようには走らない。〜女の友情論〜』を特別公開します。

「男と結婚しなくてもいい生き方を模索したいんです」

 ということを、本書編集者、20代のエノモトさんに言われた時、私は本当に驚いたのだった。ここは大正時代か?あなたは皇室か?男と結婚しなくてもいい生き方なんて、模索しなくたってすでにあるだろう〜!というか、「結婚しなくたっていい」って、あなたがそう思えばいいだけよ、以上、終わり。という答えしかないようにも思った。しかし戸惑う私にエノモトさんは、さらにこう続けた。

「結婚しなくても、男と一緒にいなくても、女友だちと生きていく道もある、女友だちと共に暮らす道もありますよね!?それを書いてほしい!」

 そんなエノモトさんの切実から、本書の企画は始まった。 小倉千加子さんは『結婚の才能』の中で、「結婚は3K(きつい・汚い・危険)の仕事である」と言い切っている。結婚生活とは、具体的で現実的な仕事の積み重ねなのである、と。そりゃそうだ。愛し愛されオンリーワンでナンバーワンの私とあなた......みたいなロマンチックラブは恋愛でこそ楽しめるけど、結婚生活とはそういう類いのものではない。現実的で具体的な3Kな日常。

 だとしたら、その相手は男でなくてもいい、だとしたら気の置けない女友だちとの日常のほうがどれだけ楽か。そんな風に考えるエノモトさんのような女性は、もしかしたら少なくないのかもしれない。皇室でもなく、大正でもなく、今の時代の今の女だからこそ。 2013年4月に公表されたNHKの世論調査では、「結婚している人のほうが幸せ(か)」という問いに対し、33%の女性が「そうは思わない」と答えている。ちなみに男性は23%の人が「そうは思わない」と答え、全ての世代で男性のほうが「結婚している人のほうが幸せ」だと考えている人が多いことも分かった。 とても納得のいく数字ではないだろうか。この国では、男にとっての結婚と女にとっての結婚は、あまりに意味が違うのだ。男にとっての結婚生活は加算、のイメージが強い。

不幸にならないための結婚

 昨今、妻にも働いてほしい男性が一般的になっているように、結婚したら収入が増え、家に帰れば食事ができ、お正月などは親戚などと賑やかに過ごし、子どもも生まれ、社会でも「一人前」の信頼が生まれ、いろいろと人生が良い方向に加算されるイメージではないだろうか。自分の人生は変わらずに、ちょっとした責任感みたいなもので自尊心が深まり、さらに生活がより豊かに深まる、というような。

 対して女の結婚観は、もっと具体的にネガティブである。仕事は今までのように続けられるか?子どもができたらどうなるか?相手の両親とはうまくやれるか?名字はやはり私が変えるのか?いったい私の人生はどのくらい、変わるのだろう?いったい何をどのくらい、諦めることになるのだろう?というか、この人で、本当に本当に本当にいいの!!??

 結婚しないのも不安だが、結婚するのもまた不安である。3Kの仕事と分かりながら、それでも従事する意味を見いだして、女たちは目をギュッとつむり、エイヤッと結婚を決意するのだ。なぜなら女たちが結婚する理由は、「幸せになりたい」というより、具体的な不幸の予想図から逃れるためだから。

 結婚せず子どもも産まずに生涯一人暮らし、貯金も最低限しかなく、頼る人はみんな死んでしまって、最期は孤独死。悪臭に気づいた近所の人に発見される......。ああ、不幸。

 または、結婚せず子どもも産まずに生涯一人暮らし、幸い仕事に恵まれ金銭的な余裕はあるが、身体を壊し、ただただひたすら病院のベッドで死ぬのを待つだけ。元来社交的ではなく友だちも恋人もおらず、持っていてよかったのはお金だけ......という思いを毎日のように噛みしめながら、最期は孤独に病院のベッドで死んでいく......。ああ、不幸。

 具体的な不幸は、いくらでも想像できる。女にとって、そんな具体的な不幸から逃れられるのが、結婚なのかもしれない。結婚は幸せの保証にはならないが、不幸がより曖昧に抽象化される安心、というか。守り守られるような気がする、一人でいるよりもいろいろと安心な気がする......そういう曖昧で抽象的な不幸回避を求めて、女たちは結婚という3Kに飛びこんでいくのだ。

 さて、20代のエノモトさんに、私はなんて答えたらいいんだろう。女友だちがいれば、大丈夫!女友だちがいれば、具体的不幸を想像してしまう負の時間など、無駄に思えてくるよ!結婚なんてしなくても、シェアハウスで女友だちと協力しながら生きていくほうが、楽しいよ!などなど、女友だちとの具体的な幸福のイメージを、年上の者としてアピールするべきだろうか。

既婚者非婚者の線引きは無関係

 改めまして、私は結婚をしていません。長い間、一人暮らし。好きな人と暮らしたこともあったけど、一人で暮らすほうが性に合っている。大切な女友だちはいるけれど、流動的。長い付き合いになるだろうなぁ、と思っている友だちでも、縁遠くなったり、古くからの友だちが思いがけなく大親友になることもある。もちろん「生涯の友」と思っていた人が急死しちゃうこともあれば、大げんかで別れてしまうことだってある。でも、生きてれば新しい出会いが必ずやってくる。

 で、そんな私の今のところの女友だちは、シングルよりも圧倒的に既婚者のほうが多い。いわゆる結婚制度を利用していない人でも、事実婚を表明したり、レズビアンの友だちも同性婚制度があったら結婚してるんだろうなぁ、という人のほうが多いし。

 今どき一人暮らしの中高年女なんて珍しくないけど、中高年になってから結婚したり出産する同世代も珍しくなく、なんだかんだと他人様の人生が様変わりしていくのを実感中だ。 30代前半の頃までは、既婚者と非婚者の間には溝があるように感じていた。時代的なこともあったかもしれない。一番大きいのは、既婚者には深夜電話できなかったこと。深夜まで遊ぶ既婚者が珍しかったこと。

 でも今は、夜中に彼女と直接スマホでつながれるし、子育て中でも自分の時間を有効に遊びに使うのは当たり前。海外旅行だって、夫と行くより友だちと行きたい、という女友だちのほうがもしかしたら多いかもしれない。子育て中の女友だちが話すママ話も、かなり面白いし、彼女たちがどんどん変化していく様には本当に刺激を受ける。

 つまりは気が合うも合わないも、時間が合うも合わないも、話が合うも合わないも既婚者非婚者の線引きは、まったく無関係。

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この連載について

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メロスのようには走らない。〜女の友情論〜

北原みのり

独身、既婚、子持ち、子なし、お金持ち、貧乏、美人、不美人…。ちょっとの「違い」ゆえに、時々ぶつかる私たち。それでも、男には絶対に見出せないものが、女の友情にはある。「女友だち」の新しいカタチを描く、北原みのりさんのエッセイです。

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コメント

midnight_kurage 「結婚は3K(きつい・汚い・危険)の仕事である」ある意味そうね。 19日前 replyretweetfavorite

khotokotokoto #SmartNews この記事すごく好き。 https://t.co/VxcOdbW7Qp 19日前 replyretweetfavorite

SetunaHearts #スマートニュース 20日前 replyretweetfavorite