冬はいつでも寒いけれど、そろそろ街がクリスマス色に飾られ、さあ年末だぞ~とはやしたてられるこの時期が、いちばん「寒い」と思いませんか。
なんでしょう、まだ年末になるにははやいよ、って気持ちが焦るからでしょうか。それとも単に華やかなクリスマスムードと気温の寒さがミスマッチな気がしてきもちわるく感じちゃうからでしょうか。いや、単にわたしが冬が苦手だからってだけかも……。
世の中には冬が好きな人もいるのでしょうが、わたしは寒いのが死ぬほど、ほんとうに、死ぬほど苦手なので(京都の冬はめちゃくちゃ寒いので、毎年「わたしは生き延びられるのか……?」と怯えながら冬を迎えます)、同じく冬が苦手なあなたに向けて、本を選びます。同志よ!
というわけで今回ご紹介するのは『ひとり暮らし』(谷川俊太郎・新潮文庫)。寒い冬の夜に読むと効果倍増、の、エッセイ集です。
『ひとり暮らし』谷川俊太郎
(新潮文庫)
何の効果が倍増なのか。それは、「寒さ肯定力」です!!!
……いきなり何の話をし始めたのかと思われそうですけれど。冷え性の方、寒いの苦手な方、冬が苦手な方はぜひ読んでみてほしいんですよ、このエッセイ集。
たとえば谷川俊太郎さんが「葬式に出るのはいやではない。結婚式に行くのよりずっといい」と言う箇所。
未来が明るくないことを知りながら、未来はバラ色であるかのような顔をして冷えた伊勢エビをつっつき、ほほえみながら祝福のことばを述べるのだから、結婚式に出るのはつらい経験に違いない。その点、葬式には未来というものがないから何も心配する必要がない。未来を思って暗い気持ちになることもない。未来を思うとしてもせいぜい死者の行ったと思われる死後の世界というものは、いったいどんな所なのだろうと妄想するくらいのもので、これにははかばかしい答がないから、すこぶる気楽である。(『ひとりぐらし』より引用)
谷川俊太郎は、結婚式のことを、葬式と対比する。ふつうは明るくて華やかな席とされる結婚式よりも、「葬式はいい」と軽やかに葬式を肯定する。
もちろん世間一般からすると、葬式より結婚式に出たい人の方が多い。そりゃー誰かが死ぬより誰かが生まれる(可能性がある)方が嬉しい。けど、たしかに結婚式という「絶対に明るくいなきゃいけない場面」に対して抵抗を覚える時もあるだろう。そこに抗ってしまう自分を、谷川俊太郎はさくっと「肯定」する。未来がない方がいいじゃないですか、って。
『ひとり暮らし』は、そんな、ふつうはしんどいと思ったりつらいと思ったりすることを、からりと肯定する言葉にみちみちている。
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