初恋の子はオレと顔が似てたね
──ところで専門学校卒業後はどこかデザイン事務所とかに入って……とか考えていたんですか?
山口 いや、「専門学校行ったぐらいでデザイナーになれんのか?」って思ってたのよ。そのへんはリアリストっていうか、オレって意外と俯瞰で自分のこと見れるのよ。
──童貞なのに。
山口 そうなんだよ。童貞だけど自分に甘くないしね。
──きっと甘くなさすぎて童貞なんですよ。
山口 そうなのかもな……。で、専門学校って2年で終わりじゃん。2年目の秋ぐらいになって、さて就職どうするんだって話になった時に学校の就職課に相談にいったのよ。そしたら広告制作プロダクションを紹介してくれて、そこに面接行ったらすぐに受かっちゃったんだよ。
──順風満帆じゃないですか! じゃあもう後は卒業制作を作るだけってことですね。卒業制作は何を作ったんですか?
山口 恥ずかしいんだけどね、ムーンライダーズのレコードジャケットを勝手にデザインしたんだよ。当時って海外のバンドだとトーキング・ヘッズが好きで、『リメイン・イン・ライト』ってアルバムがあったんだけど、あれが最先端の音だったんじゃねーかな。で、日本のバンドだとムーンライダーズが好きだったんだよな。当時出てたアルバム全部をB全のパネルに手描きしたんだよ。
──それはかなりの労作ですね。
山口 先生が厳しくってさ~。ダメ出し食らって一回作ったのをゼロから作り直したのよ。あれは泣いたな~。でも、提出後のある日に先生がわざわざ家に電話くれたんだよ。なんでかっていうと、オレの作品ってポップな作風だったんで、そういうのはいっさい展示しないっていう決まりがあったみたいなんだよな。ま、オレは卒業できればよかったんで、「気にしないですよ」って言ったんだけど。
──相変わらず女性には興味がなかったんですか?
山口 それが実はさ、卒業間近頃に気になる女の子がいたんですよ。
──え! それはもしかして初恋ってやつですか?
山口 そうかもね……。専門の同級生だったんだけど、その子の好きなタイプがかまやつひろしとジョニー大倉(笑)。すっげーセンスいいんだよ。
──よすぎですね。
山口 そうだろ? そんな人、生きづらいだろ……。今どうしてんのかなぁ。生きてるのかなぁ。所沢に住んでて、池袋でよくお茶したりしたよ。
──デートとかもしてたんですか?
山口 一緒に映画観に行ったりとか、デートみたいなこともしたよ。でも、付き合うまではいかなかったんだよな。女の子と親しくなると、一緒に学校から帰ったりして、「あれ? これって付き合ってるのか?」みたいな、あの時期がいちばん楽しいじゃん。ま、そこがオレの童貞っぽいとこなんだけど。
──童貞っぽいどころか真性童貞じゃないですか。
山口 そうだった(笑)。そういえば、絵本を作る授業があって、オレは『少年愛の美学』とか書いてた稲垣足穂の『一千一秒物語』の短編を絵本にしたんだよ。
──めちゃくちゃ攻めてますね。
山口 そうだろ? でもさ、みんな大して面白いことやらねーのよ。でも、その女の子は大瀧詠一の『NIAGARA CALENDAR』を絵本にしてたんだよ。当時大瀧詠一なんて聴いてる人いなかったから、センスいいなぁって思ったな~。で、これオレの異常なところなんだけどさ、その子がオレとまったく顔が同じなのよ(笑)。
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