「おい、オレのが先輩だぞ!」
バラエティ番組を見ていると、先輩・後輩の関係性を説明する場面に繰り返し遭遇する。「年齢は下だけど芸歴はあっちのほうが上」だとか、「芸歴から考えれば、かなり馴れ馴れしいし、その上、飲みの誘いを平気で断る後輩の態度」だとか、「わざわざちっとも売れていない先輩の名前を出して、『誰やねん?』『へ? 知りません?』『知らんわ!』のやり取りを繰り返す中堅の話法」だとか、芸歴に準じた関係性を何度も教え込まれる。
以前も書いた記憶があるけれど、『しゃべくり007』で有田哲平にいじられた原田泰造が、頻繁に「おい、オレのが先輩だぞ!」の突っ込みで済ますのがどうしても苦手なのである。自分が体育会系社会を心底毛嫌いしてきたから、との勝手な理由なのだが、あの番組自体が、無法地帯へようこそ、と言わんばかりの姿勢で芸能人を招き入れているのにもかかわらず、「おい、オレのが先輩だぞ!」は、極めて無難なコミュニケーションとして、その場の法規になってしまう。いっつも原田の所作を見て笑っているのに、その時だけは、先輩だから何だってんだよ、と小さく呟いてしまう。でも多分、それが繰り返されるのは、当人が手応えを感じているからなのだろう。
ずっとキレているわけではない
テレビだけではなく、世の中には、「同い年だけど、早生まれで学年は一個違い」といった話に溢れている。話の流れの中で「ってことは、自分が小6の時に武田は小3ってことか」というフレーズが炸裂することも多い。こちらは「ですね」としか答えようがない。年長者を敬う気持ちはあるものの、年長者であるという理由だけで敬おうとする気持ちは少なく、年長者なんだから敬え、と直接的にでも間接的にでも言われると、すっかり敬いたくなくなる。原田の「先輩だぞ!」が苦手なのは、彼がどうのこうのというよりも、これまでの社会人生活で浴びてきた「先輩だぞ!」に起因するあれこれが掘り起こされ、塊となり、再び脳天を直撃するからかもしれない。
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