多摩産の80㎝近い大物
私事で恐縮ですが、テレビに出演させていただくことになりました。
「大都会サバイバル」
11/23(金祝)22:45~ NHK総合テレビにて放映予定です。
災害が起こりインフラが止まってしまった街においても、身近で美味しい食材を採って、楽しく豊かに暮らすことができるよ、という趣旨の番組になる予定です。
ちょうど、先般よりビッグコミックスペリオールで連載させていただいている漫画『僕は君を太らせたい!』の世界観ともリンクしており、合わせてお楽しみいただけると嬉しいです。
で、今回の当連載記事でもそれにちなみ「大都会で採れる美味しいタンパク質」をテーマにしてみることにしました。
ネタはずばり、コイです。
コイは美味しい食用魚
でっぷりと太って美味しそう
どんなに魚に疎い人でも、知らない人がいないだろうと思われる魚があります。
その代表的なものが、海のタイ、そして川のコイでしょう。
こいのぼりなどコイをモチーフにした物品は多く、全国のあらゆる川や池沼、ときには庭の池や用水路のような場所にも棲息していることがあり、日本人にとって最も身近な魚といえると思います。
その知名度の一方で、コイが食用魚であるということはそこまで知られていないような気がしています。
山形県米沢地方や長野県諏訪地方などをはじめ、全国の内陸部を中心にコイを食する文化もあるのですが、そうでない地域では「ドブに棲んでいる魚」というイメージも邪魔し、「食べられると思ってなかった」、あるいは「食べるところがあるのは知っているけど、自分では食べようと思わない」という反応が返ってくることが多いです。
実際のところはどうかというと、ぼく自身は「たいへん美味しい魚」だと思っています。ただ「美味しくない」という人の気持ちもわかります。というのが、コイは生息環境によってその味がとても変わる魚なのです。
前記した「コイ料理が有名な地域」には共通点があります。それは「山間部や大きな河川・湖に近く、きれいな水が豊富に手に入る」というもの。
コイは肉食性の強い雑食で、大きく成長することもありその水域の食物連鎖の頂点にあることが多いです。成長過程で食べたものに汚染物質が含まれていると、それが生物濃縮され臭みとして表出されてしまいます。そのため、ドブのような場所に棲んでいるコイは強烈な泥臭さ、あるいは以前アメリカナマズの記事でも登場した「ゲオスミン臭さ」を帯びてしまうのです。
河川の多いわが国では、かつては全国的にコイが食用にされていました。しかし、高度経済成長期を境に河川の汚れが深刻化すると、コイは「美味しい魚」から「臭くてまずい魚」に変化してしまい、多くの地域で利用されなくなっていったのです。
「あれ? じゃあ『大都会で採れるコイ』って臭いんじゃね?」と思った方、おおむね正解です。基本的には、ドブ川に棲息するようなコイはどうやったって臭くて食べられません。
しかし、そうでないところのコイなら、そのまま加熱しても、あるいは多少の工夫を用いれば、美味しく食べられることが多いのです。
都市河川のコイを美味しく食べよう!
コイを捕まえて食べようと思うとき、まず大事なことは「ポイントの選定」。
工業排水がそのまま注ぐような場所は論外ですが、そうではない「生活排水」についても、コイを食べる場合は大切になります。
具体的に言うと、流域に「下水処理場」が多い河川のコイは、だいたい強い臭みがあります。
見た目はきれいそうでも、水質は厳しい
現在の下水処理技術はかなり進んでいるのだと聞きますが、それでも処理場からの排水は独特の匂いがあり、これが魚の身にも移ってしまうのです。とくにコイは排水口周辺に好んで棲み付く性質があるのでなおさら。
臭みにもいくつか種類があるのですが、ただ単に富栄養化した水域では、泥臭さや藻臭さ(青くモワっとしたような香り)がついているのが多いのに対し、生活排水の多い水域のものは前記のゲオスミン臭がついてしまっているものが多いです。このゲオスミンはアスファルトのような強い臭いがあるうえ、どう調理してもほとんど消すことができないため、こういう場所での捕獲はやめた方がいいでしょう。
ちなみに、きれいな水に放して臭みを抜く「泥抜き」はコイの場合は魚体が大きいのもあり、ほぼ効果ありません。年単位で清水畜養すれば別かもしれないけど……
お勧めできるのは「湧水地からほど近く」「近所に食品・飲料水の工場がある」河川。
水量の多さもポイント
こういう場所では私的・公的に湧水や地下水の保全が行われ、水質管理も行われている場所が多いので、必然的に河川の水質もよくなります。
東京では武蔵野台地が広がる山の手以西にこういう場所が多く、住宅街の中を流れる河川でも驚くほど水質がいいこともあります。
こういう場所のコイは、鰭もきれいで美しい体形をしていることが多いです。また、体表の臭みもあまりありません。
ただひとつ注意したいのは、こういう場所のコイはときに近所の人によって餌付けされている場合がある、ということ。
野生のコイに餌付けするのも捕まえるのも当人の自由なわけですが、聞く耳を持たない人だとこちらを威嚇してきたり、ときに何の前触れもなく警察に通報したりすることがあります。生物採捕禁止・釣り禁止の場所でない限り、犯罪行為ではないので堂々としておけばよいのですが、あまり気分のいいものではないので、注意されたら河岸を替えるくらいの心の余裕は持っておいた方がいいかもしれません。
ヒマがあれば「コイの餌付けがどれだけ環境に悪影響を及ぼすか」について一席ぶってみるのもいいかもしれませんが、だいたいの場合は時間の無駄です。
さて、ポイント選定が正しくて、無事臭みのないコイを手に入れることができたなら、次は調理法の選定です。
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