弔いの流儀

第ニ回 成長産業としてのデスケアビジネス

死を取り巻く環境やビジネスをクールに見つめる速水健朗さんの連載第二回です。今回は、なぜこの国で葬儀ビジネスが注目を集め、成長を期待されているのか? その現状を読み解きます。

人口は減るけど死者は大幅増

 まずは、いまどきの葬式について触れる前に、日本人の死を取り巻く概況について触れていきましょう。

 厚生労働省の「人口動態統計」によると、2010年の日本人の死亡者数は約119万人です。8年連続8度目のミリオン超えです。そして、この数字は今後、右肩上がりに増えていくのは間違いありません。人口減少のフェイズに入った日本では、あらゆる分野で市場規模のダウンサイジングが問題となっていくことが懸念されています。ただ、人口は減る代わりに死者は2030年代までは右肩上がりに順調に増えます。そして、そのピークは2038年頃です。予想では166万人代にまで増える(人口問題研究所「人口統計資料集 2006年度版」)と予測されています。

 死に関わる産業は、間違いなく、これからの成長産業なのです。とはいえ、現実には葬儀ビジネスの事情は急ピッチな変化を遂げようとしています。WEB集客型葬儀サービスを提供するユニクエスト・オンラインは、2012年7月の調査で、52.6%、つまり半数以上の人が、直葬のスタイルを選択しているという調査結果を発表しました(「半数以上が通夜式も告別式もしない直葬を選択-葬儀総研7月度 | ライフ | マイナビニュース」)。直葬とは、通夜や告別式を行わず、火葬場でセレモニーを行うという、最も簡易でコストのかからない葬式のことです。

 都市部でこの直葬が増えているということは、葬儀ビジネスの世界ではもちろんよく知られていたことでした。といっても、直葬が葬儀全体を占める割合は、10~20パーセント程度というこれまでの認識は、急速に崩れつつあるようです。上記の短期間にネットを介して集めたデータが、どれだけ実情を表しているかはともかく、広告の増加なども含めて直葬の普及は実感ベースでも感じ取れるのではないでしょうか。

結婚式と葬儀の費用の違い

 『読売新聞』が2012年4月8日に発表した世論調査によると「葬式を簡素にしたい」と回答した人の数は92%です。いまどきの傾向は、大規模な葬儀はなるべく避け、家族葬や直葬が好まれるという傾向が強くなっています。

「ゼクシィ結婚トレンド調査2009」によると、いまどきの挙式・披露宴にかけた費用合計は、330.7万円です。結婚式の数、つまり婚姻組数自体は、今後も減少し続けることが確実とみられていますが、それに合わせて一件当たりの費用は上がっています。

 数が増える葬儀は一件当たりの費用が激減し、数の減る結婚式は費用が上がっているのです。これは、業者の参入競争、それに伴って生じる価格競争といった市場原理に照らし合わせると当然の結果とも言えるでしょう。死者数の増加とともに成長産業と見なされている葬儀ビジネスも、個々の業者にとっては厳しい競争に晒されることになります。

「終活」に「エンディングノート」

 とはいえ、外から眺めるこのビジネスの活況ぶりは、目に余ります。経済誌の特集、新聞一面の書籍広告や郵便箱に投函される投げ込みちらし。あらゆるところ「終活」や「エンディングノート」やといった死にまつわる概念やアイテムは、バズワードとして氾濫しています。

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弔いの流儀

速水健朗

消費社会において「死」はどのように扱われていくのか? さまざまな弔いのかたちに光をあて、急変する葬儀を取り巻く環境を人気ライターが追います。古くて新しいテーマである「死」を考える一助として、お読みください!月2回更新予定(休載中)

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