結婚していく女友だちへ

独身、既婚、子持ち、子なし、お金持ち、貧乏、美人、不美人…。ちょっとの「違い」ゆえに、時々ぶつかる私たち。それでも、男には絶対に見出せないものが、女の友情にはあるーー。

「女友だち」の新しいカタチを描く北原みのりさんのエッセイ『メロスのようには走らない。〜女の友情論〜』を特別公開します。

 先日、高校時代の女友だち三人とほぼ20年ぶりに再会した。私以外はよく集まってご飯を食べているらしく、たまたまフェイスブックでつながった私がそこに参加した、という感じで。

 女友だちは三人とも結婚していて、子どもがそれぞれいて、みんな専業主婦だった。20年ぶりの再会、しかも生活様式がまったく違う私たち、いったいどんな話ができるのかしら?と不安な気持ちもあったが、会ってみれば、すぐ昔に戻るような感じで私たちは賑やかに盛り上がり、私は彼女たちの夫や子どもの話、近所の意地悪なママ友の話に耳を傾けながら、前からこんな風に一緒にいたのかしら、と思えるほど自然にうちとけた。

 酒もすすみ、声も大きくなり、ギャーギャー笑いながら、もしこれが30代前半とかだったら......もう少しピリピリしていたんじゃないかな、ってふと思った。40歳を過ぎたから、私たちはこんな風に楽しめるのかな、って。

 結婚か、仕事か?いまだに女たちが選択を迫られるような空気の中で、仕事にやりがいを見いだせなかった女友だちほど結婚を機に、やはり仕事を辞めている。共働きしている友だちもいるけれど、結婚を機にパートに変えるなどしている。

 結婚してもそれ以前と同じ職場で同じ仕事を続けている女の多くは、大企業で安定した高額の給料を得ていたり、外資系でフリーランスのように働いているような人がほとんどで、そうではない女友だちは、例外なく転職や退職をしている。

 20代や30代の時はそういう女友だちが、遠かった。なぜ辞める?経済を手放すのは怖くないの?なぜ、夫の仕事が優先されるの?「結婚したから、仕事辞める」という話を聞くたびに、一つ一つの「なぜ」に重たい気持ちになったものだ。

結婚式のスピーチは聞くに堪えないものばかり

 中学時代の親友、イズミの結婚式に呼ばれたのは、20代最後の6月だった。イズミは結婚を機に仕事を辞め、夫の実家がある地方都市に住むことが決まっていた。彼はもともとその街の食品会社に勤めていて、結婚までの数年間は遠距離恋愛をしていたという。結婚式は、彼の会社の人たちの賑やかな芸などで盛り上がったが、正直に言えば彼の上司たちのスピーチは聞くに堪えないものばかりだった。「イズミさん!彼を美味しいご飯で支えてください!彼を支えることで、我が社を支えることになり、ひいては我が県の経済を支え、さらに日本の経済を支えることになるのです!!!」

 ばかみたい、である。でも、これが日本の企業の現実なんだわね、と覚醒するような気分にもなる。ワイングラスを手に渋い気持ちで新婦席を見れば、イズミはとてもきれいな笑顔でニコニコ微笑んでいる。ああ、イズミ、日本経済のためにご飯をつくれだなんて、人生の晴れの日にジジイにそんなこと言われて悔しくないですか!と若い私は憤ったが、それは私の悔しさであって、イズミの悔しさではないのだった。

 旧家だという彼の実家と、地元では有名なその企業の人たちでいっぱいの昔ながらの結婚式は盛大だった。「嫁」のイズミ側の存在感は限りなく薄く、「嫁」一家は常に一歩後ろで、娘をよろしくお願いします、あなたの世界に送ります、というような姿勢が求められる結婚式だった。

 結婚式の後、スピーチで感じたもやもやを振り払うように私は努めて明るく「おめでとう」とイズミに声をかけた。イズミは「ありがとう、絶対に遊びに来てね!」と手を握ってきたが、それと同時に隣にいた夫も「おー、ミノリちゃーん!これからもイズミをよろしくね!」と言いながら私の肩を組んできたのだった。

 大らかで明るく気安い感じのいい男。だからイズミはこの人を好きになったんだよね......と思いながら、私は肩を強ばらせ、苦い顔になったはずだ。これからはイズミの家に遊びに行くのではなく、イズミと彼の家に行くのだ!と当たり前の事実に気がついたから。ついでに言えば、私、肩を気楽に組まれるのは、とってもイヤなの!という思いで。

大好きなのに、生活は見たくない

 その時に三人で撮った写真は、今も残っている。きれいなイズミと酔っ払った夫の間に挟まれた私。夫に肩を組まれ、私には表情がない。

 イズミのことは大好きなのに、イズミの生活は見たくない。そんな思いが私に生まれてしまったのだった。あんなに親しかったのに、私は30代、一度もイズミの家に行くことはなかった。最初のうちは定期的に誘ってくれていたイズミも、私が生返事ばかりするのが分かったのだろう。しばらくすると連絡が途絶え、私たちはほぼ10年近く付き合いがなくなってしまった。まさに、結婚を機に、だった。

 20代後半から30代前半に、女友だちの結婚ラッシュが、そんな風に訪れた。仕事を続けられる友だちと違い、彼の都合とか、またはこれを機に、みたいな感じで仕事を辞める友だちとは、連絡が途絶えがちになった。

 それはもちろん、嫁ぐ女VS専業主婦、という対立なんかではない、と思いたい。稼ぐ女が専業主婦をどこか見下したように語ったり、専業主婦が稼ぐ女に対して卑屈になったり、または優越感を持つような感情はいまだに珍しいものではないが、そんなつまんない対立感情にひっかからないために、フェミニズムを人生に取り入れてきたつもりだ。うっかりしていると女と女の対立や女どうしの分断という落とし穴が、この社会にはごろごろとあるのだから。......しかし、そんな風にフェミフェミ考えていた私自身が、専業主婦の友だちと私の間に、自ら濃い線を引いたのだ。その事実をどう考えればよいのだろう。

 私がイズミの家に行け(か)なかったのは、そして専業主婦になった女友だちと疎遠になりがちだった大きな理由は、やっぱり私は戸惑い、怒っていたからだと思う。イズミが当たり前のように夫を優先していく様や、妻を"嫁"と呼ぶ男たちへの違和感や、"ご飯をつくって夫を支えて!"と言うオッサンへの軽蔑。イズミがイズミじゃなくなってしまったような気分にさせられる全ての"嫁は二の次結婚式の伝統"への戸惑いと怒り。そんな怒りを持て余していたのだ。

私自身が女の分断という罠に嵌っていた

専業主婦になったことは、もちろん彼女たちの選択だ。でも、そんな選択など端から手にしない男たちが、気軽に肩を私に組んでくるような無邪気さも含めて、腹立たしくてたまらなかった。

その自分自身の悔しさに夢中になるばかりで、それがイズミの悔しさではないということに配慮がなかった。イズミは私に手を差しのべていたのに、それを振り払うようにしたのは私自身だった。

 だいたいイズミの選択を尊重できない、という時点で、私自身が「私はひっかからない」と思い込んでいた女の分断という罠に嵌まってしまっていたのかもしれない。その選択が私にとって納得のいかないものだとしても、その選択を迫るような状況を考え、共に言葉にしていくことが、女友だちだからこそできるものなのに。

 この国の男たちが味わうことのない、女だけに突き付けられる「選択肢」と「女友だちとの分断」。それをうまーく乗り越えていく術は、イズミとならば、きっとできたはずなのに。私は自らそれを手放したのだった。

 そんなことを20年ぶりに出会った専業主婦になった女友だちと語りながら、考えた。私が彼女たちと20代に会っていたら、彼女たちが子育てに追われていた30代に会っていたら、もっと私はいろんな女と出会えていたのにな、と。罠にはひっかからないよ、という思いで自らで引いた線に、自分自身がつまづいたような気持ちになった。とてもとても、もったいないことをしたのではないか、と思った。

 イズミが結婚してから10年以上経っている。相変わらず日本の社会では、女が仕事をすることも、さらには結婚することも、子どもを産むことも育てることも、厳しさがつきまとう現実がある。どんな立場に立っても、女として生きている以上、私たちがそれぞれ孤立しがちな状況は変わらない。だからこそ、分断しちゃいけない、対立してる場合じゃない......と言葉では気軽に言えるが、大好きな女友だちの決断に寂しさを感じた時、それが実行できるかどうか。

 今年のお正月は、たぶん、実家に帰ってきているだろうイズミに連絡しようと思っている。10年間の沈黙を回復できるかどうか分からないけれど、それでも会わなくちゃ、って思っている。イズミは私に会ってくれるだろうか。

次回「女友だちとの美醜ヒエラルキー、直視するにはあまりに残酷な現実」は11/29(木)公開予定。

この連載について

メロスのようには走らない。〜女の友情論〜

北原みのり

独身、既婚、子持ち、子なし、お金持ち、貧乏、美人、不美人…。ちょっとの「違い」ゆえに、時々ぶつかる私たち。それでも、男には絶対に見出せないものが、女の友情にはある。「女友だち」の新しいカタチを描く、北原みのりさんのエッセイです。

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コメント

sato__michiko 「私自身が『私はひっかからない』と思い込んでいた女の分断という罠に嵌まってしまっていたのかもしれない。」 4ヶ月前 replyretweetfavorite

minorikitahara 先週「あさイチ」で特集された「女の友情論」。 友情の築き方、壊れ方、修復の仕方、語られ方は、ジェンダーが深くからんでる。 シスターフッドについて考えながら書いた 「メロスのように走らない」を先週からcakesで連載しています。 https://t.co/B8NtbNkty5 4ヶ月前 replyretweetfavorite

a_chang_0322 読みながら、「フェミ自身が嫁や専業主婦を下にみているのでは?」と思った。 来月半ばで退職してからは当分の間、とても働きに出られる状況じゃないので専業主婦になるわけだが、こちらも卑屈にならないようにしないと。 https://t.co/XbCKUg5WdN 4ヶ月前 replyretweetfavorite

nanamiutena https://t.co/pNwPY2uREj 「結婚式のスピーチは聞くに堪えないものばかり」 「イズミさん!彼を美味しいご飯で支えてください!彼を支えることで、我が社を支えることになり、ひいては我が県の経済を支え、さらに日本の経… https://t.co/6whCwQBg5B 4ヶ月前 replyretweetfavorite