振り真似文化復活とともに勢いを取り戻した「歌詞と動きのリンク」
アイドルの振り真似文化が息を吹き返したきっかけの曲として、以前、モーニング娘。の7thシングル「LOVEマシーン」を挙げましたが、煽りの役割が強かった同曲のダンスでは、歌詞を表現した振りはまだほとんどありませんでした。そして8thシングル「恋のダンスサイト」の「セクシービーム!」の掛け声と共に、言葉と連結した振付はいよいよ本格的に復活を遂げます。こうしてみると、「振り真似」と「歌詞と動きのリンク」というふたつの特徴は、非常に相互性が高いことがわかります。つまり、振付を真似するにあたって歌詞に沿ったダンスだと覚えやすく、また歌詞に沿ったダンスだと覚えやすいので真似したくなる、というわけです。
この特徴は、2005年末のグループ結成当初、「LOVEマシーン」や「恋のダンスサイト」の振付を担当した夏まゆみ先生から指導を受けていたAKB48にも受け継がれ、2010年代でも今なお数多くのアイドルに浸透しています。
2008年からAKB48グループを担当している牧野アンナ先生の振付では、その特性がさらに顕著になりました。「大声ダイヤモンド」のサビでは「しまっておけない」で人差し指を口元に当ててから前に出し横に振って打ち消し、「大声」で口元に手を当てて叫ぶポーズ、「ダイヤモンド」で指で丸を作りキラキラと顔の前で回す。「10年桜」ではサビの「10年後に」で腕を縦と横にクロスし漢数字の「十」を作って、「また会おう」で手を振り別れを告げ、「この場所で」いまいる場所を差し、「待ってるよ」で「約束」を表す小指を前に出す。「涙サプライズ!」ではミュージカルの如くAメロの「授業終わるベルが鳴ったら ふいに君を目隠しして」から「それが合図だ みんな一緒に 鳴らすクラッカー 3!2!1!0!」のBメロまでほぼ歌詞通り再現し、サビの「Birthday」でケーキのロウソクに見立てた人差し指を頭から上に突き上げ、「1才年齢を重ねた」ことを表現する。といったように、とにかく細やかに詞を視覚的に広げた振付が多かったのです。
言葉に合わせた動きというのは覚えやすい反面、あまりにも直接的だとジェスチャーゲームのようになってしまい、幼かったりコミカルすぎる印象になってしまうこともあります。しかしこの頃のAKB48の振付作品では、たとえば「ヘビーローテション」のサビの「愛しさは」では言葉の意味をとるのではなく、「い=1 と=10 し=4 さ=3 は(輪)=○」と響きを数字に当てはめる、というストレートになりすぎないための工夫が随所に施されていました。これらも一見して意味に気付くものではないかもしれませんが、いざダンスを覚えようとした時には非常に理解しやすいギミックとなっています。