兄の慎一と僕とは長いこと疎遠であった。
どれくらい付き合いがなかったかというと、僕は兄が結婚したことを一年近くも知らなかったほどだ。
ある年の正月に実家に帰った。見知らぬ女性がいて家の中をテキパキと切り盛りしていた。
「お父さん、ビール飲む?」
「お母さんおもち煮えたからね」
などと言って、実の息子である賢二などより家に完全になじんでいる。
ん? 誰だっけ? こんな親戚いただろうか…ハッ! と気付いてその女性が席を立った時に両親に小声で尋ねた。
「もしかしてあの人、兄貴の奥さん?」
「そうだよ」
と母がシレッと答えた。
「え? 兄貴結婚したの?」
「したよ。知らないのか?」
と逆に父。
すると母が「賢二は知らないよ。だって言ってないもん」
え? なんで?
「お前が来ると親戚がサインしろとか言ってうるさいから結婚式呼ばなかったんだよ」
「あ〜そうだった、そうだったな。それにお前、慎一とそんなに会話もないだろ」
と、父母にキッパリ言われたぐらいの疎遠であったのだ。