平成最後に「暴力」について考える、名著『暴力の哲学』

本書を読みながら、むかし家庭教師バイトをしていたとき、小さい子どもに「ていうか戦争ってなんでなくならないの~?」と無邪気な笑顔で聞かれたことを思い出しました。あのときは答えづらかったけど、今ならこう言う。「酒井隆史の『暴力の哲学』を読もうねっ!」と。
「暴力」ってわたしたちの内側のすぐ近くに存在するんですよね。殴る蹴るじゃなくて、「誰かを支配したい」って感情そのもののこと。

 何かにつけ、平成最後の、という枕詞がつく昨今ですね。いや~平成終わるのか~。とへらへら笑っているうちに2018年も終盤にさしかかっており、「まじかよ」と驚きを隠せません。まじかよ。はやっ。どーりで最近寒いはずだわ。
 そんな最近のわたしのマイブームといえば、「平成を統括する25冊」を考えること。
 や、平成に流行ったベストセラーまとめ☆なんかはすでに誰か書いてる気がしますが、個人的に「平成ってどういう時代だったのか」を考えるうえで大切な本たちを選んでみたいな~~と思ったのです。
 そんな中、最近出会った「これは【平成統括本】に外せない!! 平成っぽい!! そして名著!!」と叫びたくなる一冊。
 酒井隆史さんの『暴力の哲学』(河出文庫)という本なのです。


『暴力の哲学』酒井隆史
(河出文庫)

 いやー、めっちゃ感動した。面白かった。というわけでご紹介します。もっと売れてくれ!(直接的な欲望)。
「暴力」というと、何が思い浮かびますか。ヤンキーたちの殴り合いですか。DV、体罰、喧嘩。わたしなぞ運動神経ポンコツ人間なので、暴力、と聞くだけで「暴力はんたーい!」と震えながら叫びたくなります。暴力、怖い。暴力、嫌い。
 だけど『暴力の哲学』は、わたしたちの単純さを振り払うように、衝撃的な前提を突きつけてきます。

しばしば(とりわけ近年では)、「暴力をふるう者」は「暴力をふるいそうな者」へと拡がって、現実には暴力が生じていないところに暴力が生じそうだからという理由で暴力がふるわれるという奇妙な事態があらわれてくることもよくあります。極端にまでいけば、「暴力はいけません」と叫びながらふるわれる凄まじい暴力にしか存在しない、という倒錯した事態もありえます。つまり、このような「非暴力」のモラルは、好戦的でしばしば残忍ですらある暴力への忌避感どころか、むしろそのような暴力を許容したり促進したりする感性を濃密にはらむことさえあるのです。(『暴力の哲学』より引用)

 わかりますか、この話。
 みんなが「暴力はあかん!」と言う。じゃあ暴力を防ぐべきだ。その暴力を防ぐためにふるわれる「公式の暴力」が、最近は多く存在する。そしてわたしたちは「予防のための暴力ならまぁいいか」とスルーする。だって暴力(公式)の対象になるのは自分じゃない(と思ってる)からね!

 すっ、すごくないですかこの話。はじめて読んだとき、わたし、めちゃくちゃ感動したんですよ。
「あ、あまりにもその通りっ」と図星を突かれた。
 具体的に言うと、体罰なんかわかりやすいですね。ヤンキーの生徒が暴力をふるわないように、あらかじめ先生が暴力をふるっておく。その暴力によってヤンキーじゃない生徒は安心する。しゃーないよね、あいつら暴力ふるいそうだもんね、って。……こわ~~~~。いつのまにか己も暴力の加担者。

「暴力はいけません」という漠然とした「正しい」モラルこそが、暴力の蔓延を促進させ、暴力の圧倒的な非対称性を容認させ、暴力への無感覚を肥大化させているひとつの動力なのです。(『暴力の哲学』より引用)

 酒井さんは、上に述べたような「暴力はだめというモラルが暴力を許させる」というテーゼを序章に置きつつ、「とはいえ、暴力はやっぱりイヤだ」という声を拾い上げます。
 いったい、現代における暴力とは何なのか? 暴力は本当に必要なものなのか? 暴力と非暴力は本当に分けられるものなのか? 政治や哲学、歴史、映画や文学……分野を跨ぎながら説く一冊です。

『暴力の哲学』に出てくるのは、一見国家や政治をめぐる話が多いのですが。そんな遠い話じゃなくても、「暴力」ってわたしたちの内側のすぐ近くに存在するんですよね。

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暴力の哲学 (河出文庫)

酒井 隆史
河出書房新社
2016-01-07

この連載について

初回を読む
わたしの咀嚼した本、味見して。

三宅香帆

人気連載【京大院生が選んだ「人生を狂わす」名著50】がリニューアルして再スタート! 書籍『人生を狂わす名著50』の著者であり、現役の京大院生で文学を研究し続ける24歳の三宅香帆が、食べて、咀嚼して、吐いた本の中身を紹介するブックガイドです。

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コメント

rom_emon 酒井氏は元号でくくられるのはいやがるだろうけど。 https://t.co/sfyjS8Z8tX 2ヶ月前 replyretweetfavorite

tatsunyan1230 めちゃくちゃいいレビューだったので早速購入。権利を行使するには相応の暴力が必要ということは『嘘喰い』で学んだ🙄 2ヶ月前 replyretweetfavorite

ushiyamaT2 【備忘録】ヘイトという暴力には暴力で対抗すべき、という一部の方々に対するモヤモヤ感解消に読んでおこう 2ヶ月前 replyretweetfavorite