Twitterに匿名でメッセージを送れるサービスを設置しているのだけど、そこに「山小屋での不思議な話や怖い話があれば読みたいです」というメッセージが届いた。
このメッセージを見るまですっかり忘れていたのだけど、山小屋ではけっこう怪談を聞く。
言いたくはないけど、山は事故で亡くなる方が多い。そのせいか、「昼寝していたら金縛りにあってすすり泣きが聞こえた」とか、「あそこの部屋に入ると必ずカメラが壊れる」とか、そういった話には事欠かない。
私自身はというと、34年の人生の中で一度も幽霊を見たことがない。山でも霊的な恐怖体験はしたことがないので、体験談を書けないのが心苦しい。
けれど、身近で不思議な体験をした人がいるので、今日はその話をしようと思う。
白いおじさんの話
5、6年前の春のことだ。
夫とマイケルというあだ名の日本人スタッフ(なぜか毎年ひとりは外国人名のあだ名で呼ばれるスタッフがいた)が、雪道を切っていた。
「雪道を切る」とは、滑り台状になっている登山道の雪を、スコップで階段状に整える作業。春とはいえ、北アルプスはまだ雪が積もっている。雪道を切ることで、登山道を登りやすくするのだ。
夫とマイケルは、山小屋の少し下の登山道で作業をしていた。
作業を終えて山小屋に戻ってきたら、昨日から宿泊していた常連の土屋さん(仮名)が不思議そうに言った。
「さっきの白いおじさん、なんでせっかく来たのに戻っちゃったの?」
「白いおじさん?」
「ほら、さっき、吉田君(夫)たちが作業してるとき、登山道に白いウェアのおじさんが来たじゃない」
「え?」
夫はその「白いウェアのおじさん」を見ていない。というか、作業している間、登山者をひとりも見ていないのだ。
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