『数学ガールの秘密ノート/行列が描くもの』大好評です!
登場人物紹介
僕:数学が好きな高校生。
ユーリ:僕のいとこの中学生。 僕のことを《お兄ちゃん》と呼ぶ。 論理的な話は好きだが飽きっぽい。
$ \newcommand{\NONAMACROBASE}[2]{\texttt{..}{\scriptstyle #1}#2} \newcommand{\NONAMACROBASEREV}[2]{#1{\scriptstyle #2}\texttt{..}} \newcommand{\NONAMACRO}[1]{\NONAMACROBASE{#1}{#1}} \newcommand{\NONAMACROREV}[1]{\NONAMACROBASEREV{#1}{#1}} \newcommand{\NONA}{\NONAMACROBASE{\textrm o}{\textrm O}} \newcommand{\NONAX}{\NONAMACROBASE{\textrm x}{\textrm X}} \newcommand{\NONAQ}{\NONAMACRO{?}} \newcommand{\NONAQREV}{\NONAMACROREV{?}} \newcommand{\NONAEX}{\NONAMACRO{!}} \newcommand{\NONAHEART}{\NONAMACRO{\heartsuit}} \newcommand{\PAIR}[2]{\langle#1,#2\rangle} \newcommand{\MUL}{\mathbin{\ast}} \newcommand{\NEQ}{\neq} \newcommand{\REMTEXT}[1]{\textbf{#1}} \newcommand{\SET}[1]{\{\,#1\,\}} \newcommand{\SETM}{\,|\,} $
僕の部屋
僕は高校生。いまは土曜日。
ここは僕の部屋。
いつものように、いとこのユーリが遊びに来てる。
でも、今日はいつもと違う。
今日は《もう一人の女の子》もいっしょなのだ。
ユーリ「……そんで、このかわいい子がノナだよ。ユーリとおんなじクラス」
ノナと呼ばれたその女の子は、僕に向かって頭を下げた。
彼女はユーリよりは一回り小柄。
中学生だけど、小学生のようにも見える。
登場人物紹介(追加)
ノナ:ユーリの同級生。
僕「ノナちゃん?」
ノナ「はい$\NONA$」
ノナは、ふわふわした声で答えた。
彼女はベレー帽をかぶり、丸い眼鏡を掛けている。
幼く感じるのは、やや目尻が下がった垂れ目のせいかもしれない。
ベレー帽から顔の正面に下がったノナの髪は、ひとふさだけ銀色。それが印象的だ。
ユーリ「お兄ちゃん! ノナのこと、じろじろ見ないで!」
僕「あ、ごめん」
ユーリ「でも、ノナの銀髪(ぎんぱつ)、カッコいいっしょ? ひとふさだけの銀髪メッシュなんだよ!」
ノナ「カッコよくないよう$\NONA$」
登場人物紹介(更新)
ノナ:ユーリの同級生。
ベレー帽をかぶってて、丸い眼鏡を掛けていて、ひとふさだけの銀髪メッシュ。
僕「それで……えっと、ユーリ? ユーリは今日、ノナちゃんと一緒に来たんだよね」
ユーリ「そーだよ」
僕「これからいったい、何が始まるんだろうか」
ノナ「ユーちゃん……何も言ってなかったの$\NONAQ$」
ユーリ「要するに、数学を教えるんだよん」
僕「数学を教えるって……誰が?」
ユーリ「お兄ちゃんが」
僕「誰に?」
ユーリ「ノナに」
ノナ「よろしくお願いします$\NONA$」
僕「そう言われても……」
ユーリ「いーの、いーの。いつもと同じでリラックスして話せばいーんだから」
僕「何だそりゃ」
ユーリ「あのね、ノナは、あんまり数学得意じゃないんだよー。だから、ていねいに教えてね」
ノナ「数学、ぜんぜんだめ$\NONAX$」
ユーリ「でも、興味はすんごくあるんだよねー」
ノナ「だって、ユーちゃんの話、おもしろいから$\NONA$」
ユーリ「えー、そっかなー」
ノナ「そうだよう……この前も$\NONA$」
ユーリとノナ、仲良し中学生女子二人の会話が始まった。
僕は、しばらく放置状態になる。
漏れ聞く会話を総合すれば、こういうことらしい。
ノナは数学があまり得意じゃない。というか苦手。
授業もよくわからないし、テストで点が取れない。
でも、ユーリがノナにおもしろい数学の話をするから、興味がある。
よく話題になる《お兄ちゃん》とやらの話を聞きたい。
(ちなみに《お兄ちゃん》というのは僕のことだ)
ということで、ユーリとノナがいっしょにやって来た……
僕「……ということか」
ユーリ「そーゆーことだ」
ノナ「よろしくお願いします$\NONA$」
僕「と言われても、何を話せばいいのかなあ。ノナちゃんは数学苦手なの?」
ノナ「はい$\NONAX$」
僕「それとも数学が嫌いなの?」
ノナ「はい$\NONAQ$」
僕「得意・不得意と、好き・嫌いは違うよね」
ノナ「よくわからない……わかりません$\NONA$」
僕「ノナちゃんは、数学の授業は好きじゃないの?」
ノナ「嫌い$\NONAX$」
僕「嫌いなんだ」
ノナ「つまらない$\NONAX$」
僕「どうして授業がつまらないか、パラフレーズ……どうしてかわかる?」
ノナ「わからないから$\NONAX$」
僕「なるほど。難しいのかなあ」
ノナ「公式、嫌い$\NONAX$」
僕「覚えるのが嫌い?」
ノナ「わけがわからないから$\NONAX$」
僕は考える。
なし崩しにノナに数学を教える流れに巻き込まれているけど、 何もないところから《数学の話》なんてできないぞ。 何かとっかかりはないかなあ……
ユーリは、僕とノナのやりとりを黙って聞いている。
僕「……ねえ、ユーリ。ユーリはたとえばどんな話をしてたの?」
ユーリ「いろんな話。ノナはリサージュ図形が好きだって言ってた。だよね?」
ノナ「好き$\NONA$」
僕「リサージュ図形……」
ユーリ「ユーリの活躍は『数学ガールの秘密ノート/丸い三角関数』で!」
僕「そういうの、自重……じゃ、ノナちゃんはグラフとか好きかな。たとえば、こういうグラフはわかる?」
ノナ「わかる……わかります」
僕「このグラフは直線で、$y = x$という式で書けるんだけど、それはわかる?」
ノナ「覚えてる……覚えてます$\NONA$」
僕「覚えてるんだ」
ノナ「覚えてます$\NONA$」
僕「$y = x$が何を表しているかはわかる?」
ノナ「$\NONAQREV$これです」
ノナは少し変な顔をしてから、グラフを指さした。
僕「ああ、いや、そういうことを聞いてるんじゃないよ。このグラフは直線で、$y = x$という式で表されているけれど、 この式自体がどういう意味なのかはわかるか、 ということを聞いてるんだ。 『覚えてる』とノナちゃんが答えたから、 『$y = x$を覚えてるだけじゃなくて、 $y = x$がどんな意味かを理解してるのかな』と思ったんだよ。 $y = x$という式はどういう意味なのか、ここでは何を表しているか、 どうして$y = x$という式がこのグラフを表していることになるのか、 そういうことはわかっているのかな、という質問なんだけど。ノナちゃん、どう?」
ノナ「……」
ノナは口を閉じ、急にけわしい表情になった。
目にちょっぴり涙が浮かんでいる。
僕はあわてた。
僕「いやいや、よくわからなかったら、わからないでもいいんだよ」
ノナ「意味がわからない$\NONAX$」
ユーリ「ちょっとちょっとちょっと、お兄ちゃん! ノナを泣かせるなよー!」
この連載について
数学ガールの秘密ノート
数学青春物語「数学ガール」の中高生たちが数学トークをする楽しい読み物です。中学生や高校生の数学を題材に、 数学のおもしろさと学ぶよろこびを味わいましょう。本シリーズはすでに14巻以上も書籍化されている大人気連載です。 (毎週金曜日更新)