菜月と鈴木はキャセイ神父が殺された六本木の教会を訪れた

【第9回】
鈴木は菜月を誘って、第2の殺人が発生した六本木の教会を訪れる。カソリック教徒の中には、イスラム原理主義者にも負けない原理主義的信者がいる。やはりこの事件はキリスト教徒とイスラム教徒との争いなのだろうか? 事件の捜査は停滞中だが、鈴木と菜月の男女の距離は急速に縮まっていく。

究極の伝奇ロマン&暗号ミステリー!

菜月と鈴木はキャセイ神父が殺された六本木の教会へ向かう

15

六本木はごった返していた。
パリも都会だが東京には負ける。サンフランシスコが田舎に思えるほどである。
ビルの間を縫うような道を抜けて、タクシーはホテルの車寄せに着いた。

大使館で渡されたプリペイドカードで精算を済ませ、ドアマンに誘導されてロビーに入ると、すぐに菜月が見えた。淡いパステルカラーのワンピースを着ていた。腕にはグレーのコートを抱えている。

「お待たせしましたか?」

「いいえ」

菜月はゆっくりとそう言うと、笑顔を作った。

「日本は凄いですね」

「何がですか?」

「人が一杯で」

それはそうだと菜月が笑った。

「最近来てなかったから、人に酔ってしまいます」

鈴木の照れている顔が可愛かった。

「済みません、チャペルはどちらの方ですか」

目の前を通ったベルボーイに声を掛けた。

「ご案内します」

と、エスカレータに向かって先導してくれた。
二階に上り、教えられた方向に歩いていくと、チャペルへの渡り廊下が見えてきた。比較的閑散としている。結婚式が行われる前後以外は人通りが少ないのだろう。

しばらく辺りを探索したが収穫はなかった。ある意味、予想通りだった。ただ、神父が声を掛けられて立ち止まったのだろうという実感は持てた。
信者と話をすることが仕事である神父にとって相手がどのような人間であれ話を聞くのが必然である。とすれば、犯人が知人である必要もない。

「戻りましょうか」

と、声を掛け、菜月が頷くのを待って踵を返した。

「同じ銃が使われるなんて、ピストルってそんな簡単に日本にも持ち込めるものなのですか?」

歩きながら菜月が尋ねた。

「これだけテロが進んでしまった社会では、むしろ簡単になっているかもしれませんね」

申し訳なさそうに鈴木が答えた。

「鈴木さんも銃を持っているのですか?」

「日本では普段は持ち歩きません。でも許可されていますので必要ならば携帯します」

「そうなんだ」

「日本の刑事と同じで、どこの国のlaw enforcement officer(ロー・インフォースメント・オフィサー 法の番人)でも国を跨いで拳銃の所持が認められていることが多いですね。特に我々FBIは正式に入国できる国では拳銃の携帯ができます」

「世界の警察官」

「まあ」

照れたように目を逸(そ)らした。

それにしてもきちんとした日本語を話すと菜月は感心していた。それに比べると、自分のドイツ語も英語もかなりいい加減である。
エスカレータを下りたところにホテルのコーヒーショップがあった。

「少し休んでいきますか?」

菜月が頷いた。
十五分ほど待たされてから小さなテーブルに案内された。

メニューをみた菜月が、

「ザッハトルテがある」

と、喜んだ。

(この子は本当に世界的に有名な医者なのだろうか)

菜月の無邪気さが鈴木を捕えていた。

鈴木はコーヒーを、菜月はアールグレイの紅茶を頼んだ。
騒いだくせにザッハトルテはいらないと言う。

「太るから」

と、あっさりしていた。

「信者でもないのに結婚式を教会で挙げたがる日本人って、やっぱり変よね?」

「僕は日系ですから理解できますが」

「ここのチャペルも結婚式用に作られたものなのでしょう?」

「そのようですね」

「それなのに、わざわざサンフランシスコから神父さんを呼んでミサをさせているのが不思議」

「アメリカから派遣された支配人がCatholic(カソリック)の信者だったそうで、それが影響しているのでしょうね」

「信者のこだわり?」

「多分そうでしょうね。日本流の運営をするにしても、やはり、それなりに神に対する畏敬を示さなければいけないと思ったのでしょう」

そう話しながら、鈴木は改めて信者の気持ちを考えた。

カソリック教徒の中にはイスラム原理主義者に勝るとも劣らない絶対的な原理主義的信者がいる。彼らにとっても神の遺伝子を持った人間の誕生は極めて重大な事件だったのかもしれない。

大切な遺伝子を受け継いだ、右手に印を持った男の子。
その子供をイスラム過激派が狙っている。
神父はその子を守って欲しいと言い残したのだろうか。

この続きは有料会員登録をすると
読むことができます。
cakes会員の方はここからログイン

1週間無料のお試し購読する

cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。

人気の連載

おすすめ記事

この連載について

初回を読む
神の遺伝子

中田力

“神の遺伝子”をさがす謎の中東系の男と米国人記者に始まる連続殺人事件。若き遺伝子学者・高山菜月は、FBI捜査官の日系人・鈴木とともに二つの謎を追いかけていく。Y染色体ハプロタイプ分析から導かれる人類の歩み。日本古代史の謎。そして救世主...もっと読む

この連載の人気記事

関連記事

関連キーワード

コメント

Tweetがありません