九螺ささら「きえもの」

九螺ささら「きえもの」【温州みかん】

気象予報士になってから、日本の雲画像ばかり見ている。
日本列島という動物の、飼育係であるような気分だ。
――電子雑誌「yomyom」に連載中の人気連載を出張公開!



その州は平和で温暖なのでしょう春にはペガサスが羽化するでしょう


 気象予報士になってから、日本の雲画像ばかり見ている。日本列島という動物の、飼育係であるような気分だ。

 天気とは、雲のことだ。

 雲の濃淡のことだ。


 いつもと違う道を通って帰宅する。

 時々そうして気分を変える。

 知らない個人商店がある。

 店名は「くもがくれ」。


 店頭の、「雲州みかん」と書いてあるポップに笑ってしまう。わたしもずっと雲州みかんだと勘違いしていた。正しくは「温州みかん」だ。わたしのような間違いをしている人は他にもいるのだ。


「うんしゅうみかんください」

「う」にアクセントを付けて言ったのだが、店番をしている白髪の店主は気づかない。

 わたしは「雲州みかん」を手にいれた。


 翌朝、ダイニングテーブルの上に置いたはずの五個の雲州みかんは消えていた。

 わたしはテレビ局のスタジオで、気象予報士として雲画像を見る。

 雲が五つのみかんの形だった。


どうしても雲のぶぶんが食べたくて雲州みかんに親指を入れる


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九螺ささら「きえもの」

九螺ささら /新潮社yom yom編集部

初の著書『神様の住所』がBunkamuraドゥマゴ文学賞を受賞した歌人・九螺ささらによる、短歌と散文が響き合う不思議な読み物。電子雑誌「yomyom」に連載中の人気連載を出張公開!

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