ガンダム発進 ~ニュータイプのアニメ、『機動戦士ガンダム』③~

2010年代に入ってから、ウルトラシリーズ、仮面ライダー、ヤマト、ガンダム、あるいは「ベルばら」「ポーの一族」などが次々と40、50周年を迎えている。それらはみな、単に昔のものとしてあるだけでなく、現役のコンテンツとして新作が発表され、映像化、舞台化されている。逆算すれば分かるが、これらの大半は1970年代に始まった。 1960年に生まれ、アニメ、特撮ものを最初期からテレビで見ていた中川右介(作家、編集者)が「リアルタイムの記憶を基にして目撃譚」として描くサブカル勃興史。

「記憶をたどりながら書きますが、公にするからには、記憶にだけ頼り、間違ったことを書いてはいかないので、改めて調べ、事実確認をして書きます。歴史家的視点と、当時の少年視聴者・読者としての記憶とを融合させ、「読者・視聴者としてサブカル勃興期を体験した者が書く歴史」を提示したいと思います。(筆者)

●リアルロボット系の始まり

『勇者ライディーン』を起点とし、『無敵超人ザンボット3』を原点とするサンライズのロボット・アニメは、『無敵鋼人ダイターン3』まではスーパーロボットものに分類される。

そのロボットのキャラクターの外見は『機動戦士ガンダム』もそれまでの作品と大差がない。『機動戦士ガンダム』が始まった時点では、「新しいスーパーロボットもの」だと認識されていた。だがこんにちでは、『ガンダム』は「リアルロボットもの」に分類され、「リアルロボットものは『ガンダム』から始まった」という歴史認識が定着している。

『ガンダム』で「リアル」なのは、ロボットではなく、人間ドラマのほうだった。この名作のどこが優れていたかは、すでに語り尽くされている。

原点を探れば、『鉄腕アトム』と『海のトリトン』に行き着くであろう。ともに手塚治虫原作で、富野がアニメに責任ある立場で関わった作品だ。「さすらいの絵コンテマン」として関わった多くの作品での富野はコンテ職人、職人的演出家である。しかし最初に虫プロで携わった『鉄腕アトム』と、西崎プロデューサーの下で総監督をした『海のトリトン』では富野がストーリーを作った。

『ガンダム』以前に富野が作家として関わった数少ない作品が『アトム』と『トリトン』だ。『アトム』の場合はフォーマットができており、一話完結スタイルのなかで、何作も手がけたわけで、ストーリーの作り方の基礎をここで会得した。

『鉄腕アトム』は日本のテレビアニメの原型を完成させた作品だが、ロボット同士が闘うというフォーマットもこの作品で築かれ、サンライズのスーパーロボットものも『ガンダム』を含め、物語構造としては『アトム』の型を踏襲している。

富野が『海のトリトン』で導入したのは、「主人公が善で、その敵は悪」という物語構造を否定するという試みだった。それは最終回においてなされた。『トリトン』を見ていた僕は、ア・プリオリにトリトンは正義でポセイドン族は悪だと思っていたのに、最終回で、ポセイドン族からみればトリトンこそが悪だったという衝撃の事実を提示されるのだ。トリトンは闘いには勝つが、勝利のカタルシスはなく、トリトンは何がなんだか分からないまま、いなくなる。見ていた僕も何がなんだか分からなかった。

この衝撃ゆえに『トリトン』は永遠の名作となり、ファンは語り合いたがった。「価値観の相対化」という1980年代に流行する文化相対主義を先駆けるようなことを、1972年の富野由悠季はアニメでやってのけたわけで、『トリトン』こそが80年代のポストモダンの原点だと言ってもいい。

この富野の功績を否定はしないが、富野を持ち上げようとして、「それまでのアニメは手塚治虫的な勧善懲悪ものばかりだった」と手塚を「否定された旧世代」のように位置づけるのは間違っている。

手塚治虫こそが、最初期から、勧善懲悪を否定するシリアスなドラマを描いてきた作家だった。手塚マンガでは、いったい何人の主人公がラストで死んでしまったことだろう。非勧善懲悪、価値観の相対化こそが手塚マンガの根底にあるものだ。富野は『海のトリトン』でそれを抽出してみせたのだ。そして『ガンダム』でより明確にした。

それまでのアニメでは、主人公の敵はア・プリオリに「悪」で、そこに疑問をはさむ余地はなかった。敵として設定されているのは、世界征服を企てている悪の組織や、マッドサイエンティスト、あるいは地球侵略のためにはるばるやってきた宇宙人という、現実にはありえないものばかりだ。本格SFの装いをしていた『宇宙戦艦ヤマト』でも敵は異星人で、リアリティがないと言えば、ない。

だが『機動戦士ガンダム』はそうではなかった。『さらば宇宙戦艦ヤマト』の封切りは78年8月、『ガンダム』の放映開始は79年4月—この8か月で、アニメは劇的に変化した。戦前の『のらくろ』と戦後の『アトム』くらいの変化と言っていい。

『機動戦士ガンダム』は地球人同士の戦争である。一応の主人公であるアムロが属しているのは地球連邦、そこに独立戦争を挑んでいるのがジオン公国だ。ジオンはナチスを模した独裁国家ではある。そのジオンの軍人のひとり、シャアがアムロのライバルだ。地球連邦軍から見れば、ジオンは悪だが、ジオンから見れば地球連邦が悪だった。

独立戦争ものは、普通は独立軍が主人公で「善」となる。強権的で独裁的な帝国に対する叛乱軍としてカッコよく描かれる。だが『ガンダム』では、主人公が属しているのが連邦側で、独立しようとしているジオンは独裁国家と、何重にもねじれている。

さらに、主人公アムロの敵役となるシャアはクールで、過去を背負う陰のある美形だ。敵役であるシャアが人気があったことは、視聴者は勧善懲悪なんてものが幻想だと知っていたからだ。イデオロギーではなく、どちらがかっこいいかという、新たな価値観が生まれていたのだ。

●アニメ専門誌との相乗効果

『機動戦士ガンダム』は、宇宙世紀0079年に始まり、0080年に終わる「一年戦争」を背景としている。宇宙世紀0001年は、人類がスペースコロニーを建設して宇宙空間への移民を始めた年とされる。それが西暦何年なのかは、明示されない。0079年にしたのは、放映されたのが1979年だからという単純な理由だ。『機動戦士ガンダム』の物語は、0079年9月半ばに始まり、同年12月31日までの約4か月が描かれる。

地球連邦とジオン公国との一年戦争はもちろん架空の戦争である。歴史の教科書ではなくドラマとして進行するので、その背景については、詳しくは描かれない。連邦軍の組織も、メカについても、テレビで見ているだけでは、よく分からない。それは、『ウルトラマン』の時代から同じだった。テレビだけではその怪獣がどういう能力を持っているのかは分からない。僕たちは「少年マガジン」や学年誌の記事で、テレビには出てこない知識を補っていた。

『機動戦士ガンダム』はそれが飛躍的に進化した。『宇宙戦艦ヤマト』ブームでアニメの専門誌が創刊されるようになり、そこに、設定資料が公開されたのだ。熱心なファンは、さまざまなルートで『ガンダム』の世界の知識を得ていった。

1977年3月に創刊された「月刊OUT」(5月号が創刊号)はサブカル全般を扱う雑誌のはずだった。第2号でたまたま『宇宙戦艦ヤマト』を特集したものの、アニメに特化するつもりはなかった。だが、他の特集が不発に終わったので7月発売の第5号で、劇場版『宇宙戦艦ヤマト』を特集したところ、大当たりとなった。これでアニメを中心とした雑誌に転じていく。

それまでのアニメは、幼年向けの「テレビランド」「テレビマガジン」で扱われるだけで、中学生・高校生が読むアニメ雑誌は存在しなかった。だが「月刊OUT」は評論を中心とした。同人誌以外に、ようやく、アニメを論じる環境ができたのだ。

劇場版『宇宙戦艦ヤマト』の成功でアニメが中高生の間でブームになると、大手出版社の徳間書房は、幼年向けの「テレビランド」の増刊号として『ヤマト』の特集号を出したところ、売れに売れたので、そのスタッフによって78年5月に「アニメージュ」を創刊した。

続いて78年12月に、イベント企画会社のラポートが、「MANIFIC」を創刊した。同社はデパートでの催事を企画・運営していたが、テレビまんが展を開催して成功したので、この分野に進出し、催事で売るためのグッズの製造販売を始めた。このグッズを売るための直営店「アニメック」を新宿に開店し、アニメ専門誌「MANIFIC」を創刊したのだ。同誌は、『ガンダム』が放映開始となる79年4月発売の第5号から「Animec」(以下「アニメック」とする)に改題した。

株式会社KADOKAWA代表取締役専務の井上伸一郎は、当時、早稲田大学の学生で、「アニメック」で編集のアルバイトをしていた。井上が角川書店で創刊から加わるのが、1985年に創刊されるアニメ雑誌「ニュータイプ」だ。当時の角川はまだアニメには進出していない。角川映画がアニメを制作するのは1983年の『幻魔大戦』まで待たねばならない。

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すべては1970年代にはじまった

中川右介 /角川新書

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