オフィスハック

なぜ人類はこんなにいがみ合うんだ

「これぞ日本版キングスマン」「スカッとする!」「早く映像化して」Twitterで話題のスパイアクション小説『オフィスハック』より第2話「ミニマル製菓の社内調整」をリバイバル連載。(あらすじ)「うちの不祥事を世間様が知る前に社内調整せよ」東京丸の内の大企業T社。人事部直轄の特殊部署「四七ソ」に今日も新たな指令が下る。年の差バディ香田&奥野がスーツに身を包み、オフィスでクソ野郎共を撃ち殺す!

◆16◆


 3分後。

 調整された1ダースの体と真っ赤なヨガボールが、冷たいコンクリートの床に転がっていた。おれと奥野さんの被害は軽微。防弾ウェストコートに一発食らっただけだ。

 本来なら、こんな寄せ集めの連中から被弾することなんてないが、いかんせんタイムリミットが迫ってる。おれたちはその中から、スマホを握りしめて白目を剥いている死体を発見し、奪い取った。

「これでいけるはずです」

 奴らはおそらく、このスマホからミニマル製菓のTwitterアカウントにアクセスしていたはず。あとは、このアカウントがハックされていたことを書き込み、出来る限り納得のいく、わかりやすい説明をするしかない。

 ……で、それを誰がやるんだ。肝心のところを決めていなかった。

「よろしくお願いします」

 奥野さんが言った。にわかに、おれの手が汗ばみ始めた。

「おれがツイートする……んですかね、やっぱり」

『早くして! あんた朝自信満々だったよね? リスクマネジメントがどうとか』

「いや、そりゃそうだけど、心の準備がさ」

 スマホを持つ手が震える。これから打つツイートが全部、何千何万とリツイートされると思うと、心臓がバクバク鳴り始めた。なんだこの緊張感は。敵部署に単身突っ込んでく方がまだマシだ。

『早く!』

「よし!」

 おれは覚悟を決め、スマホを起動させる。指紋認証だったので、さっきの死体にもう一度握らせた。起動。Twitter。よし、おれが使っているのと同じクライアントアプリだ。

 ……いや、待て。表示がなにかおかしい。

「しまった」

 おれは舌打ちした。

「どうしました、香田さん」

「おそらく奴らの最後のあがきで……Twitterアカウントを、削除されていたようです」

『ハァ? どうなるの?』

 胃が鉛のように重くなった。おれは自分の愚かさに呆れ果てた。

「まずいぞ、炎上は今どうなってる……?」

 おれは祈るような気持ちでTwitterタイムラインを追った。おれの銃弾がもう少し早けりゃ、アカウント削除を食い止められたかもしれない。

 クソッタレ。そのためにここまで凍結を渋ったッてのに。削除されちまったら、誰が事態を沈静化させるんだ?

「香田さん、Twitter知識でどうにかなりませんか」

 奥野さんも悲痛な表情だった。

「すみません、さすがに無理ですよ……もう、祈るしか……」

 おれは時刻を見た。もう12時15分を回っている。

「でも、削除されたんですよね」

「そうです」

「では、少なくとも、もう不謹慎ツイートが流れることはないですよね。血が流れ出ている傷を塞いだ、と、言えるんじゃないんですか」

 奥野さんが優しくフォローしてくれた。

「いえ、多分逆効果……」

 おれはタイムラインの反応を流し読む……タイムラインには、ミニマル製菓のアカウントが突然消えたことを伝えるツイートが溢れかえっていた。

「えっ、消えた?」「さすがに凍結食らったかな」「トランプに怒られたんだろ」「こんな程度でミニマル製菓を許すな!」「そうだそうだ!」「株どんどん売っちゃえ!」「社員全員路頭に迷わせろ!」

 やっぱりアカウント削除に意味はなかった。むしろ攻撃先を失ったことで肩透かしとなり、タイムラインの流速と過激さはさらに増している。

 おれの頭の中に、今朝の満員電車の光景が蘇った。

 なぜ人類は……こんなに、いがみ合うんだ……。

 みんな、魔女狩りみたいな熱気に捕われている。トレンドにも「炎上」「ミニマル製菓」などのワードが残りっぱなしだ。これを覆すのは……あと10分かそこらで覆して、株価まで反転させるのは……無理か。

 なら、おれ達の負けだ。第二人事部はもともと不採算だったミニマル製菓を解体するだろう。おれは無力感にさいなまれながら、それでも何度も下にフリックを繰り返し、タイムラインを更新し続けた。

「ん……?」

 突然、タイムライン上の話題が変わり始めた。

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2018-04-19

この連載について

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これぞ日本版キングスマン/会社あるあるが笑える/スカッとする!/早く映像化して! などTwitterで話題のスパイアクション小説『オフィスハック』(著:本兌有・杉ライカ、画:オノ・ナツメ)をリバイバル連載!(あらすじ)「ウチの不祥事が...もっと読む

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