どういうわけか、タクシーで青山に向かうと、おかしなことを言ってしまう。
事の始まりは数年前。
青山一丁目に向かう時だった。
『34丁目の奇跡』という映画がふとよぎったのがいけなかった。
タクシーに乗るや否や、
「青山一丁目の奇跡までお願いします」
と言ってしまった。ファンタジー。
赤っ恥をかいた私は、二度と間違えてなるものか、と我に言い聞かせた。
青山にあった、こどもの城。
注意深くなっていた私は、「こどもの、城。こども」「おとなじゃないほう。城。館でも屋敷でもなく、城」と、○○じゃない、といちいちよぎる言葉を打ち消しながらタクシーに乗った。そして出た言葉は、
「おとなの館までお願いします」。エロティック。
青山のど真ん中にある、スパイラルホール。
スパイラルなんとか→スパイダーなんとか→なんとかスパイダー。タクシーに乗って出た言葉は、
「ピンクスパイダーまでお願いします」。hideさま。
青山界隈に行く時には、なるべく電車で行くように改めた。
それでも、どうしても青山界隈に行く機会が多い私は、ついついめんどくさがってタクシーに乗ることも多い。
だがいつの間にかすっかり目的地を言えるまでに成長した(それが普通だが)。
いけないのは油断している帰り道である。
「次の信号を右折したら、しばらく道なりで」
が正解なのだが、この「道なりで」をとにかく言い間違える。
挙げればキリがないのだが、酷かったものを幾つか挙げてみる。
「次の信号を右折したら、しばらくそれなりで」
そんな人それぞれの尺度を押し付けるんじゃないよ。
「次の信号を右折したら、しばらくおざなりで」
やけっぱちすぎる。
「次の信号を右折したら、しばらく道連れで」
都市伝説になるやつだ。
「次の信号を右折したら、しばらく道すがら」
はぁ?
とりわけ酷かったのは、一番最近やらかしたミスである。
ドライバーさんの「それは困ります」と言う声で気がついた。
「へ?」「いやあの、そう申されましても」「ん?」「妻もおりますし。お客様、うちの娘よりもお若いと思いますし」。
聞けば、私はこう言ったのだそう。
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