泣くだけだったうちの0歳児がついに笑うことを覚え、感情の芽生えを家族に教えてくれた。そうなってくると、もともとゾッコンの妻はもちろん、新しい命をひたすら神秘だ未知だと言って傍観してたおれまでも尻尾を振り出す2018年の夏である。
子供を泣かさぬようご機嫌取りに終始していた我々夫婦コミュニケーションは、どんどん笑わせるための言動へと変質していった。「ああなるほど、これが人様には見せられないという噂のあやし現場か」って具合に、我に返ると気恥ずかしくなるくらい、おれたちは子供の笑顔を引き出すためのダイナミックで躍動感のある笑わせ行為を全力で繰り広げた。ときに踊ってときに歌って、その声はどこまでも明るい。そんな努力の先には、我が子のパアッと花咲く破顔がある。するとどうだ。努力が報われることの喜びなのか、笑顔自体の破壊力にやられてかは知らんけど……アアなんだろこのときめき……キミの笑顔見たい、とびっきりの恋してるおれたち……!
そんな心かよいあわせ研究が進む中で、またひとつわかったことがある。この2ヶ月児はとにかく高い音に喜ぶ。楽器で言えばハイハット、人の声なら芹那あたり。爆レスをもらうときはそういう類のときだし、笑わせ上手のご近所さんはみな声を高くする。赤ん坊だからなのかこの子だけの特徴なのか、それはまだ定かではない。
そして一方で、彼は低音を怖がる傾向にある。ヤンチャなバイクが近くを通り過ぎると、ほぼ100%泣く。っていうか私の「千の風になって」の声真似でも泣く。「お墓の前で」あたりでくちびるがへの字になって震え、「泣かないでください」と歌い上げる頃には声を上げている。泣くなし。10代の頃「おれの歌声でいつかフジロックに」と自信を持っていた私の声が、今や人をエンターテインするどころか泣かせる凶器になるとかマジ卍。
生まれてくる前にフジロックつながりの友人が「うちの子、最近Daft Punkがお気に入りなんですよ」って話していたのを聞いて、「じゃあ僕の遺伝子を引き継ぐきみはどんな音楽を好きになるだろう? エレキギター? 泣きメロ? トラップ?」なんてワクワクしたのが懐かしい。まだお腹の中にいるときのエコー検査では腕を「X」とやってたような子だったが、まさか低音ボイスでダメなら軽音楽はだいぶまずそうだなあ。割と音がドンドコ言うようなエンターテイメント会場が大好きな夫婦に試練が訪れようとしていた。
とは言うものの季節は夏。フェスシーズン真っ只中だ。私は今や人生の中で一番続いているフジロック参りがあるし、ハロプロへ熱視線を送る妻も「ROCK IN JAPAN FESTIVAL(ロッキン)」にモー娘。とアンジュルムが出るのだと体を温めている。子供——!! おまえのこと好きだけどおれたち音楽も好きだ——!!!ということでこの夏は父も母も、生後間もない子供を中心にしない1日がそれぞれ設けられていた。
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