「なにしてるの~??」
5歳くらいの女の子2人組に声をかけられた。
この日は、10月の多摩川野草会の下見に来ていた。
しゃがんでいたから、女の子たちと同じ目線。
彼女たちは好奇心に満ちたキラキラした瞳で私を見ている。
女の子たちは、手にお花を持っていた。
イヌタデだ。
イヌタデは、赤やピンクの小さな花が咲き、赤い果実がつく。それを分解して赤飯にみたてて遊ぶことから「アカマンマ」という別名がある。
「植物をみているよ」
可愛いお花が咲いている野草や、実のついた野草を中心に、タンポポ、ツユクサ、イヌタデ、アカツメクサ、イシミカワ、アレチウリ・・・と女の子たちに植物の名前を教える。
タンポポの茎をつぶすとプープーと音が鳴るタンポポ笛ができるよ。
ツユクサはミッキーマウスのような形の花で、花びらだけを摘んで水と混ぜると青い色水ができるよ。
紫色の花を咲かせるアレチハナガサは、すぐに花が散らないので花瓶にさしても可愛いよ。
彼女たちは「可愛い~! キャー!」と言って、説明したそばからお花を摘んでいく。
小さな手に、色とりどりの秋の野草の花束ができる。
野草の花束をどうするのだろうと思って見ていたら、なにやら作り始めた。
アレチウリの葉をお皿にして、イシミカワの実を上に並べて、イヌタデを横に置いて・・・
少し待っていると「お弁当だよ!食べて~!」と両手に野草を持ってさしだしてくれた。
小さな両手いっぱいに広げたアレチウリのお皿に乗った、野草弁当。
食べられる野草ばかりじゃないけど、とても美味しそうに見える。
「ありがとう、もぐもぐ、美味しいね!」
3人で食べるマネをして笑う。
おかずたっぷりの野草弁当だ。
野草のお弁当をいただいたかわりに、私は彼女たちにアカツメクサの花で王冠を作った。
本当は、シロツメクサで王冠を作りたかったんだけど、秋にシロツメクサはあまり咲いていない。
シロツメクサよりも繁殖力旺盛なアカツメクサは、今の時期でも、ポツリポツリと咲いていた。
アカツメクサは、赤紫色のくす玉のような形の花を咲かす。
アカツメクサの王冠を、子どもたちの小さな頭に載せる。
シロツメクサより大型のアカツメクサの花で作った王冠は、子どもたちの頭を覆いつくしそうな存在感。
ふふふっと顔を見合わせて笑う女の子たち。
白いアカツメクサを見つけた。石華詰草(セッカツメクサ)と言う。
彼女たちが帰るときに、アメリカセンダングサの種を洋服にくっつけた。
この植物は"ひっつき虫"で、種がかぎ状になり、動物や人間にくっついて繁殖していく。
女の子たちは、「キャー! イヤ——!」と言って、お互いの洋服にくっつけあいながら帰っていった。
野草生活は「食べる」ことだけではない。
食べるのは、むしろ時々でいいし、少しでいい。
移り変わる季節の植物に触れることは、子どもだけではなく、大人にとっても新鮮な気付きをもたらす。
植物の知識がなくても、見たり、触れたりして、想像力を働かせ、彼女たちのように、もっと気軽に楽しみたいと思った。
女の子たちは、今日野草のお弁当を作ったことや、くっつき虫をくっつけあって遊んだことを記憶の端っこに置いておくのだろうけれど。
いつか、思い出すことがあるかもしれない。
彼女たちと接していたら、私も昔同じことをした記憶がよみがえった。
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