なぜ仙台のかまぼこ屋が「日本一タカマル」のか?

物が売れない時代、コピーライターの川上徹也氏は小さな会社やお店は、価格・商品といった「勘定」で勝負するのではなく、心を揺さぶる売り方=「感情」で勝負をすべきだと、著書『物を売るバカ2』(角川新書)で訴える。本稿では『物を売るバカ2』で特に反響があった、ネットでの発信とリアル店舗での接客を組み合わせてお客さんの心をつかみ、熱いファンを増やした「かまぼこ屋」の店長のエピソードをより詳しく紹介する。


「かまぼこの佐々直セルバ店」店長の菅原亜依さん(中央)

SNSの発信が店舗に「熱」をうみだす! 

 仙台・地下鉄泉中央駅近くの商業ビル・セルバの1階。食料品の店舗が並ぶデパ地下のようなフロアに、ひときわタカマル店がある。「かまぼこの佐々直セルバ店」(正確な店名は「閖上旬肴亭 佐々直 セルバ店」)だ。佐々直は仙台名物笹かまぼこの老舗。現在は仙台市を中心に7店舗(うち直営4店舗)を展開している。セルバ店は直営店のひとつで、伝統の逸品「手のひらかまぼこ」やほくほくで超おいしい「はんぺんフライ」をはじめ各種惣菜かまぼこなどを売っている。

 なぜタカマルのか? それは店長の菅原亜依さんが本名や「菅原のあい」名義で、ツイッターインスタグラムブログなどを駆使して、日々の「タカマル情報」を発信しているからだ。決めゼリフのように出てくるフレーズは「タカマル—!!!!」。自称「日本一タカマルかまぼこ屋」だ。「タカマル」とは、「気持ちが高まる」という意味だ(と思う)。

 実は商品の「かまぼこ」のことを書いている記事は少ない。日々に感じたことや、お客さんやスタッフのことが主に書かれている。登場するスタッフはなんだかみんな楽しそうだ。またセルバの他の店を紹介することも多い。それにもかかわらず、一度、佐々直のかまぼこを食べてみたいと思わせる力がある。


お客様と写真を撮ってSNSにアップする(左)。スタッフの誕生日は毎回みんなでお祝いをする(右)。

 もちろん発信だけでない。実際に店舗に訪れてみても、接客はSNSの写真の雰囲気そのままだ。だから、お客さんも「タカマル—」のだ。このようなお決まりのフレーズがあると、キャラが明確になり、覚えてもらいやすいという効果がある。実際、店のすぐ裏にあるセルバのイベントスペースにやってくる有名人の方々との交流も書かれているが、相手も菅原さんのことを紹介するツイートでは「タカマル—」を使用することが多い。

 熱いファンも多く、あるお客さんのブログでは「かまぼこは佐々直セルバ店でしか買わない。もしかまぼこではなく他の商品を売るようになっても佐々直セルバ店に行く」というようなことまで書かれていた。実際、菅原さんが現在の取り組みをするようになってから、売上もかなりタカマッている。2年前このような取り組みをするまで、この店舗の年間売上は7000万円代だったが、現在は8000万円代後半まで伸びており、夢の年間1億円を目指しているという。

 とはいえ、菅原さん始めスタッフは、会社から言われてやっているわけではなく、自分が楽しいからやっているに違いない。やらされている感がないのは写真からも実際に店に行ってもわかる。スタッフ全員をこのような気持ちにさせることは並大抵のことではない。まず店長がイキイキしていないと、スタッフがこんなにイキイキすることはないからだ。

問題児のち一度辞めた会社に再入社

 今でこそ、店に熱いファンを数多く生み出している菅原さんだが、実は新入社員の頃は超問題児で、一度会社を辞めたという過去がある。「小さい頃、閖上の祖父母の家でよく食べた蒲鉾屋」という理由だけで運命を感じ佐々直に応募し入社したが、販売員として配属されたデパートでは、学生気分が抜けず、自由奔放。毎日怒られてばかりなのが嫌になり、なんと一年で退職してしまったのだ。

 その後、さまざまな職種を体験するが、情熱を燃やす仕事が見つからなかった。そんな20代半ば、ハローワークで佐々直の求人を見つけ、再び運命を感じて応募。面接までこぎつけ「もう一度チャンスをください!」と社長に直訴して、再度採用に至った。

 百貨店勤務を経てセルバ店に配属されたのは約6年前。当時、セルバ店は店長不在の売場だった。1年後、店長に指名されたが、前店長がいなかったので引き継ぎもない。すぐに感情的になり、自分が正しいと思い込み、スタッフたちの意見もろくに聞かないワンマンな最悪な店長だったという。スタッフはどんどん辞めてしまうし、どうしたらいいんだろう「もうしんどい」と思う毎日だった。

 そんな時、セルバの店長セミナーに来ていた講師に愚痴をこぼしていたら、「菅原さんはどんな店長になりたい?」と質問された。それをきっかけに改めて「自分はどんな店長になりたいんだろう?」と考えてみた。すると、当時の自分とはまったく違う店長像が思い浮かんだ。何年かけても「自分がなりたい店長」になろうと決心した。

当たり障りのないことはつぶやかない

 菅原さんがツイッターを始めて4年。最初は何をつぶやいたらいいかわからなかったという。商品の事、イベント告知など、当たり障りのないことしかつぶやいていなかった。ある日からそれをやめることにした。理由は「つまんないから」。

 それからあまり商品のことをつぶやかないようになった。代わりに「みなさんに知って欲しいからスタッフの事」「自分のプライベートの事」「自分が好きなこと」など、とにかく「個」をだすツイートをするようになった。最初は、自分がおもしろいなと思う人のツイートの仕方をマネすることから入ったが、徐々に自分のスタイルが確立されていく。

 毎日毎日そんなツイートをしていたら、フォロワーも増えてきた。SNSで知り合った人が店にやってきてくれるようになった。さらにそれをSNSで発信したらまたそれが広がっていき、新たな人と出会っていく、いい循環がうまれてきた。それにともなって、リアル店舗も活気が出てくるようになったのだ。

 「タカマル—!!!!」というフレーズを使いだしたのは、SNSの使い方の師匠と尊敬していた「短パン社長」こと奥ノ谷圭祐氏のセミナーに参加することになり、感情が高まりすぎでツイッターでつぶやいたのがきっかけだった。現在は「日本一タカマルかまぼこ屋」と自称し、「タカマル子」と自分のことを呼ぶこともある。
SNSの師匠「短パン社長」の誕生日を店頭で祝う(左)。仙台を拠点に活動中に人気歌手ティーナ・カリーナさん(右)とは、イベントスペースでのライブ時にかまぼこを販売したことで仲良しに。

#「タカマル記念日」の奇跡

 2018年3月17日、事件は起こった。ある事情で本社からセルバ店に「旬海漬(魚の粕漬)」100セット売ってほしいと連絡がきた。100セットは通常数日かけて売るボリュームだ。困った菅原さんはツイッターでお客さんに助けを求めた。



 するとそれに反応して、全国のお客さんから続々と注文が入った。 金額もどんな商品かも詳しく言ってないのにもかかわらずだ。常連だけではない、SNS上で知り合っただけで一度も会ったことがなかったお客さんもいた。ツイッターのDM上でやりとりして、3時間後、100セットは売り切れた。



 「まるで夢みたい」と感傷にひたる間もなく、菅原さんは「自分にできる最大の事をしよう!」と思ってすぐに行動を開始。全員にお手紙を書いてすぐに発送手続きをした。いち早く御礼を伝えたかったからだ。すると、なんと今度は商品が届いたお客さんから続々とツイートがあったのだ。


実際に届いた商品をご本人とともにアップしているツイートや
さっそく味の感想をお伝えいただけているもの
SNSの師匠である短パン社長からも。しまいには、売ろうとしていた商品だけではなく、かまぼこもどーんと買ってくれるお客さんも現れた。

 これらのツイートを見て、菅原さんはタカマりすぎてもはや感情が爆発しそうだったという。「私はただただ蒲鉾とか魚を売ってるんじゃないんだ」と確信した瞬間だった。この「#タカマル記念日」を例をみてもわかるように、人は感情が揺さぶられると、極端な話、商品の内容や値段も関係なく欲しくなってしまうのだ。

 実は菅原さん、10月いっぱいでセルバ店の店長を離れ(12月末まではお客様へのあいさつのためセルバ店勤務)、各店舗を統括するアシスタントマネージャーという立場になることが決まっている。 しかし立場は変わっても、個の情報を継続して発信することでお店や商品のファンになってもらい、いつか会社全体のファンになると信じて行動していくことには変わらない。そして老舗のかまぼこ屋に革命を起こしたいと企んでいる。

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角川新書

この連載について

物を売るバカ2

川上徹也

今の時代に買われるために必要なものは、価格や機能といった「勘定」ではなく「感情」。物が売れない時代と言われて久しいですが、競合とさほど変わらない物やサービスであっても、売り方次第で一気に人気を博すものになります。『物を売るバカ2』(角...もっと読む

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コメント

MedzillaMeichan #SmartNews 宮城においでよ https://t.co/57QvEK5qSS 19日前 replyretweetfavorite

daisanzi タカマル話!必読ですよ皆さん! 21日前 replyretweetfavorite

twinklebonny やはり個の魅力なんだよね。 22日前 replyretweetfavorite

Kaoruchan34 タカマルーーーー。SNSでこんなに実績を上げた人を目の当たりにして、僕の気持ちもタカマルーー! あのセミナーの場にいたけど、「タカマルーーー」ってあれ、サイコーだったもんね。 #セルバ #SNS #タカマルーー https://t.co/GmOSgHxG7i 22日前 replyretweetfavorite