恋人未満」が決まった夜

BuzzFeed Japanに所属する注目のライター嘉島唯さんのエッセイ連載『匿名の街、東京』。だれの胸の内にもある学校、会社、友人、そして家族の思い出を鮮明に映し出します。第3話は男友達Kとの記憶。恋はこうやって実らずに終わるのかもしれません。

日が沈んで夜風が心地いい。遠くで音楽が鳴っている。フジロックは夜が一番楽しい。

プラスチックカップに入ったビールの泡はもう消えていた。現地で合流した男友達Kと芝生の上に腰をおろして、遠くのステージを見ている時だった。

「俺さぁ…」
「ん?」
「…Mに告白された……ぽいんだよねぇ」
「は?」

突拍子もなく言われたので、思わずフリーズした。

「いや……直接『好きです』とか『付き合ってほしい』みたいな文言じゃないんだけど…」と言いながらiPhoneを触っている。

「こういうのが、きた」

画面に映ったのは、見慣れた女友達Mのアイコン。そして、吹き出しの中には私が知らない彼女がいた。「好きです」というような決定的な言葉はなかった。でも、明らかに好意を感じるものだった。

予測していなかった事態に思わずクラクラした。多分、その一瞬だけで3回くらいDMを読んだ。何度目を通しても、可愛らしくはがゆい想いが詰まっていた。

「はい」

自分を落ち着かせるように、Kの腰あたりに視線をやりながら静かにiPhoneを返した。なぜか顔は見れない。

額に手を当てながら、Kと彼女と3人で過ごした時間を手探りにかき集める。高田馬場のロータリーで「理系っぽい人が好きなんだよね」と私に打ち明けた日も、高円寺で飲み明かした日も、きっと彼女の目に映っていたのは彼だった。

正直、私は隣にいながらその好意に気がついていた。でも、気のせいだと思いたかった。

だって、Mはフジロックに来ていない。もともとKを彼女に紹介したのは私だったし、趣味だって……頭を回転させては嫌な気分になった。

「なんて返せばいいと思う?」

Kが聞いてくる。フェスの会場にいるのに音楽は全く聴こえてこない。浮かれた会場を見つめて「さぁ…」と返すしかなかった。

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匿名の街、東京

嘉島唯

若手ライターの急先鋒、嘉島唯さんによる待望のエッセイ連載。表参道、渋谷、お台場、秋葉原、銀座…。東京の街を舞台に、だれの胸の内にもある友人、知人、家族との思い出を鮮明に映し出します。 第2回cakseクリエイターコンテスト受賞者、嘉...もっと読む

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コメント

shiori_edo 「最高の議事録を作る」の記事からたどり着いた記事。 続き気になる… https://t.co/BEVnCI3ruJ 3ヶ月前 replyretweetfavorite

kaaaaaaii うー耳が痛い。 8ヶ月前 replyretweetfavorite

hayabusa_falcon これもほんと、、、 とりあえずエモいの好きな人は読んで(語彙力) 8ヶ月前 replyretweetfavorite

az58usa これ、しんどい!泣 9ヶ月前 replyretweetfavorite