前回は、資産運用における「複利」の大切さについてお話ししました。今回は、「レバレッジ(てこ)」の話です。資産運用にとってもっとも大切なのは、複利とレバレッジの効果を理解することです。ところでなぜ、お金の話にてこが出てくるのでしょうか?
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理科が苦手なひとでも、「我に支点を与えよ。されば地球をも動かさん」というアルキメデスの言葉は覚えているでしょう。てこの原理を使えば、わずかな力で重いものを動かせるというたとえです。資産運用におけるレバレッジ(てこ)とは、わずかなお金で大きな利益を得ることです。しかし、こんなウマい話がほんとうにあるのでしょうか? てこに必要なのは、長い棒と支点です。レバレッジに必要なのは、借金です。大金持ちになる魔法はかんたんです。
100円で買った珍しい切手を切手商に持っていったら、200円で売れたとしましょう。当然、利益は100円で利回りは100%です(利益100円÷投資額100円)。ところで、切手を買うときに財布のなかに10円しかなくて、友だちから90円を借りたとします。その切手を売ったら200円になったのですから、そこから90円を返済しても手元には110円が残ります。最初の出費は10円ですから、この場合も利益は100円(110円-10円)ですが、「投資」の利回りは、10円が100円に増えたのですからなんと1000%(利益100円÷投資額10円)になります。
お金持ちの友だちがいれば、手元の100円を元金に900円を借りて、切手を10枚(1000円分)買うことができます。それを切手商に売れば2000円になるのですから、900円を返済しても残額は1100円で、投資額100円を引いた利益は1000円です。不思議なことに、借金をすることで、自分だけのお金では100円だったはずの利益が10倍の1000円に増えたのです。
てこの原理では、棒が長ければ長いほど重いものを持ち上げることができます。資産運用では、レバレッジ率が高ければ高いほど利益は大きくなります。「我にレバレッジを与えよ。さればこの世のすべての富を手に入れん」というわけです。
レバレッジ率が高いほど利益も損失も加速する
このようにレバレッジは、ターボチャージャーのように資産運用のパフォーマンスを加速します。だったら、レバレッジは高ければ高いほどいいのでしょうか。実は、そういうわけにはいきません。この便利な高速マシンは、ときどき逆回転するからです
先ほどの例で、珍しいと思って100円で買った切手が偽物だったとしましょう。偽物にはなんの価値もありませんから、100円は丸損です。ところで、この100円に900円の借金をして、1000円で偽物の切手10枚を買っていたらどうなるでしょう。自分の100円が丸損になるばかりか、友達に900円を返さなくてはならないのですから、損失は合わせて1000円。100円だったはずの損失が、レバレッジによって1000円へと10倍に膨らんでしまったのです。
100円の現金で100円の切手を買えば、レバレッジは1倍です。100円借金して投資額を倍にすれば、レバレッジは2倍です。900円の借金で1000円を投資すればレバレッジは10倍です。10倍のレバレッジでは、利益も損失も10倍になります。これが、レバレッジをかけた運用が「ハイリスク・ハイリターン」といわれる理由なのです。
マイホームは信用取引よりハイリスクな投資
ここまでの説明を読んでも、あなたはきっと、「レバレッジなんて自分には関係ないよ」と思っているでしょう。ほとんどのひとは、ハイリスクな投資などしないからです。でも、ほんとうでしょうか? あなたは知らないうちに、レバレッジをかけた投資をしているかもしれません。それも、かなり危険な。
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