そもそもマーケティングとブランディングの違いとは
私がビジネススクールで教えているのは、主にマーケティングに関するもろもろのことなのですが、その中でも特に一般消費者向けのマーケティングが私の得意分野です。
消費者向けマーケティングというと、避けて通れないのがブランド論です。私の担当するコースでもブランドについてのマーケティング事例を取り上げるのですが、最近クラスでよく受講生から受ける質問に、「マーケティングとブランディングって、何が違うんですか?」というものがあります。
この質問は、決してピント外れでも知識不足でもなく、実はかなり本質的な問いだと思っています。試しにGoogleで「マーケティングとブランディングの違い」と検索してみると分かりますが、この質問に対する明快な答えとその理由を述べたページは、インターネット広しと言えどもなかなか見当たりません。
よくあるのは「マーケティングは顧客との関係が短期的・衝動的なのに対して、ブランディングは長期的な信頼関係を顧客との間に作り上げることだ」というような答えです。
これは、ブランディングとは何かが分かっている人にとっては「そうだ、そうだ」と思えるかもしれませんが、ブランディングとは何かを知らないが、ブランディングに取り組まなければならないビジネスパーソンにとっては、まったく説明になっていません。
「短期的か長期的かの違い、だって? 短期と長期の区切りはどこなの? それで、結局自分は何を目指して、どういうことを考えなきゃいけないの?」
この答えを聞いた人の頭の中には、そんな疑問が次から次に湧くだろうと思います。
まあ、こういうあいまいな言葉やたとえ話を出して「うまい説明をした気になる」のが多かったりもするので、(マーケティングに携わったことのない)世の中の多くの人は、マーケターという人種を「何やら抽象的なイメージのふわふわしたことを議論する人たち」と思っている場合が多いんですね。
本当のマーケターというのはそんな人たちじゃないよ、という記事は7年前に「R30」のブログでも書いたことがあるのですが(「マーケターというお仕事/R30::マーケティング社会時評」)、ここではそれは余談ということで、本題に戻ります。
あるいは「どうせ、マーケティングとブランディング、どっちもやることは『企画を立てて、商品を売る』ことでしょう? 抽象的な違いしかないのなら、実務面でその2つを区別する必要もないんじゃない? 」という気持ちになる人もいるでしょう。
しかし、実際にこの2つが明確に区別されないと、困ったことが起きるのです。
最近、とても秀逸な「ブランディング」の取り組みでありながら、その中に「マーケティング」の影が忍び込んでしまったために、少々残念なことになってしまったという好事例を発見しましたので、ご紹介したいと思います。
ブランディングCMに紛れ込んだマーケティングの違和感
次の映像を見てください。皆さんご存じの「東京ディズニーリゾート」(TDR)が、今年30周年を迎えて製作されたブランディング広告です。
TVCM 「夢がかなう場所 / Where Dreams Come True」
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