かれこれ十数年前、なけなしのカネを握りしめて行った後楽園。酔客で溢れる屋外に燦然と浮かぶリングがあった。オヤジたちや若者の怒声が響くなか、汗を滴らせ、身体をぶつけあう女子プロレスラー。ブレンバスター、ジャンピングニーパット、ジャイアントスイング。派手な技の応酬に、「ギャァァ」「オラァ」「アァァ」、闇夜に響く甲高くせつない声。「戦うビアガーデン」と銘打たれたその店で、妙な興奮を覚えつつ飲んだビールの味が忘れられない。
たしか新橋の駅前ビルの屋上にあった「ローション相撲」を目玉にしたビアガーデン。金髪のお姉さんが水着でくんずほぐれつする姿に田舎っぺは都会を知った。
お気に入りだった九段会館。靖国神社と武道館を眺めつつ飲んだ生ビール。早い時間はびっくりするほど客がいなくて、ロケーション的に似つかわしくないバニーガールが、粛々とソーセージ盛りを運ぶのを食い入るように見ていた。
俺にとってのビアガーデンは「祝祭空間」だ。開放感と相まった怪しさとある種のいかがわしさ……非日常感のなか飲むビールは格別なのだ。しかし、時代(とき)の流れか、「祝祭空間」は次々と過去のものとなってしまった……。
六本木のど真ん中で夜景と生ビールを
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