ノストラダムスはアイドル後藤真希の誕生を予言していた(後編)

モーニング娘。と山一證券、モーニング娘。と小泉構造改革、モーニング娘。とミレニアム問題……。ニッポンの失われた20年の裏には常にモーニング娘。の姿があった! アイドルは時代の鏡、その鏡を通して見たニッポンとモーニング娘。の20年を、『SMAPと、とあるファンの物語 -あの頃の未来に私たちは立ってはいないけど-』の著書もある人気ブロガーが丹念に紐解く!
『月刊エンタメ』連載中の人気連載を出張公開!

(前編)「ノストラダムスはアイドル後藤真希の誕生を予言していた」から続く

「ヤバいですよ」「どうしますか」後藤真希は言った

 1999年9の月。滅亡しなかった平成ニッポンに、その金髪中学生は東京都江戸川区からたった1人で舞い降りた。

「新メンバーになった、後藤真希、13歳です」

 本当なら彼女の隣には、もう1人新メンバーがいるはずだった。そもそもモーニング娘。の第3期オーディションは、「1999年9月9日に9人になる」の触れ込みで始まったものである。先輩メンバー7人に対し、追加予定は2人。だがこの後藤真希の登場によって、それまで大人たちが用意していた計画はすべて吹っ飛んでしまった。“レベルがあまりにも違いすぎた”、それが後藤真希という存在である。

 しかし、周囲の盛り上がりをよそに、本人は戸惑っていた。

「まさかわたしひとりだけ……とは想像もしてなかった」(後藤)

 実際、当時の後藤はそのスター性こそ群を抜いていたものの、ステージでの本格的な歌やダンスはまったく経験がない。すでにオーディション時からその点に関しては「ヘナちょこすぎ」とたびたび厳しい指摘が入っていたが、中でも後藤が一番辛かったと話したのはこのモーニング娘。加入直後、10日後に迫ったグループのライブツアー初日までに加入前の楽曲13曲を、ダンスとフォーメーション移動も含めて、すべて完璧に覚えるよう指示されたことだった。

「ヤバいですよ」「どうしますか」(後藤)

 その閃光で突然歴史を変えてしまったモーニング娘。の救世主、しかし本当の姿は、わずか1カ月前まで近所の土手で友達と溜まってしゃべっていた、ごく普通の中学生であった。当然、彼女は覚え方のコツどころか、まともな練習の方法すら知らない。

 しかもライブツアー参加を告げられた翌日には加入後の初シングル『LOVEマシーン』がオリコン初登場1位を獲得したため、モーニング娘。のスケジュールはすでにテレビ収録や雑誌撮影などで埋め尽くされている。慣れぬ日々に、クタクタな頭と体。後藤はライブツアー前日になってもまったくパフォーマンスが覚えられず、ついに振り付けを担当していたコレオグラファーの夏まゆみにも苦言を呈されてしまう。

 そして迎えたツアー初日。本番40分前の後藤は『ASAYAN』(テレビ東京)のカメラの前に、顔面蒼白の状態で立っていた。

「たぶん失敗するんですよ……」(後藤)

 その言葉の直前、後藤は極限の不安と緊張により、初めて先輩メンバーの前で号泣していた。観客はわざわざチケットを買って来てくれるのに、自分が失敗してしまったら、観客をガッカリした気持ちにさせてしまうのではないか。しかもキャパ1000人ほどの会場で、ミスをすればきっとすぐに分かってしまう。

 後藤の涙は結局止まることなく、本番を迎える。そんな彼女に舞台裏で、メンバーは1人、また1人と声をかけた。

「自信持ちな、大丈夫」(安倍)「後藤、負けちゃだめだよ」(飯田)

 いざ始まった本番。ステージに上がったモーニング娘。の後藤真希はそれまでの不安をはねのけ、歌もダンスもそして笑顔も完全に揃えた、堂々としたステージングを行った。それは夏まゆみをして「リハーサルは40点、でも本番は98点」と言わせた出来である。

 1カ月前まで普通に暮らしていた、普通の女の子。ただひとつだけ、彼女には幼い頃から後のエースたり得る、ある自負が存在していた。

「選んでくれたら。任してくれたら。それをちゃんとやり遂げる自信がある」(後藤)

 夏の高い評価を楽屋で聞いた後藤は、嬉しそうに笑って、そしてもう一度涙を見せた。

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モーニング娘。年代記

乗田綾子

アイドルは時代の鏡——その時代にもっとも愛された者が頂点に立ち、頂点に立った者もまた時代の大きなうねりに翻弄されながら物語を紡いでいく。今年20周年イヤーを迎えるモーニング娘。の歴史を、ニッポンの歴史と重ね合わせながら振り返る。娘。が...もっと読む

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