「よし、遊んでみよう。俺が青のホークにする。ナナ、おまえは赤な」
「分かった」
二人は画面に集中する。灰江田はスタートボタンを押してゲームを開始した。
以前のAホークツインは、淡々と敵を倒していくゲームだった。そのシンプルなゲームに、ロックオンと子機獲得という要素が加わった。また、合体タイミングという戦略性も増えた。灰江田とナナは「いまだ」「まだだ」「合体」と叫びながらゲームを進めていく。
「俺が砲塔役をするから、おまえから合体してこい」
「いやよ、私が攻撃したいもの」
「おまえの子機、一機しかいなくて、しょぼいじゃねえか。俺はきっちりと二機いる。攻撃力は、俺の方が上だ」
「なんか、命令されているみたいで、むかつく」
「うわああ。おまえが合体してくれないから、中ボスでやられたじゃねえか」
「なによ、あんたから私に合体してくればいいじゃないの」
爆発音が響いたあと、ゲームオーバーの音楽が流れる。ゲームは盛り上がったが、一面の途中で、二人は全滅してしまった。
「あーあ、灰江田さんが、私の言うことを聞かないから負けちゃったわ」
「逆だろう。ナナが、こっちの話を無視するから、合体タイミングを逃したんだろうが」
ひとしきり互いに責任をなすりつけ合ったあと、灰江田はコーギーに顔を向けた。
「おい、コーギー。この修正版Aホークツイン、プレイヤーに有利な機能が増えただけでなく、敵も強くなっているじゃねえか」
「はい。敵の出現数や弾の数などが変わっています。赤瀬さんは、様々な機能を外したあと、敵を弱くしてバランス調整したようですね。なので、この修正版では、こちらが強くなった分、敵もパワーアップしています」
「まあ、そりゃあそうだよな。同じままだと敵が弱すぎるからな」
灰江田は納得した口振りで言う。コーギーはうなずき、表情を引き締めた。
「移植については、二人協力プレイを、携帯ゲーム機やスマートフォンで実現する必要があります。通信機能を入れると工数がかさみます。とはいえ、許諾さえ取れれば移植料の半額は前払いしてくれる。そう山崎さんがおっしゃっていましたから、どうにかなると思います」
コーギーは技術的なことを語りだす。その話を聞いたあと灰江田は、コーギーの肩を叩いた。
「しかしまあ、よくここまで復元したな。偉いぞコーギー、そして鈴原さん。よっしゃあ、今日は祝杯だ」
灰江田が盛り上がり、ナナが歓声を上げる。そこにサトシが声をかけてきた。
「ねえ、僕にもやらせてよ」
サトシは、コイン型クッキーの皿とともにやって来る。
「おっ、おまえも興味があるのか。それじゃあ、俺と一緒にやろう」
灰江田はリセットして、サトシとともにふたたびゲームに挑む。ナナと違い、サトシは灰江田のプレイをアシストすることに専念する。灰江田は二機のホークを合体させて、一面のボスを撃破した。
「うぉー、ナナと違って、滅茶苦茶プレイしやすいぜ」
「悪かったわね」
ナナが、口を曲げて言う。サトシは皿に手を伸ばして、クッキーをかじる。ステージ間の真っ黒な画面が終了して、二面が始まった。サトシは、急に興味を失った顔になり、ナナにゲームパッドを渡す。
「もういいよ」
サトシはカウンターに戻り、UGOブランドの一本であるサブウェイシューターを始めた。その様子を見た灰江田は、呆気にとられた様子で、サトシのもとまで歩いていく。
「おいおい、サトシ。続きはプレイしなくていいのかよ」
「うん。見たいところは見られたから。僕は、もう少しUGOブランドの他のゲームを遊んでみるよ」
「そうかよ」
腑に落ちないといった顔のまま、灰江田は答える。
どうして、途中でゲームをやめたのか。コーギーはサトシのもとまで近づき、プレイの様子を観察する。サトシはスマートフォンに大きく時計を表示させて、画面と見比べている。なにか気になることがあるのか。自分が復活させたAホークツインは、完全なものではないのか。コーギーはサトシを見ながら疑問を持った。
夜になった。閉店の時刻になり、店内はコーギーとナナの二人だけになった。静枝と三田村は、すでに引き上げている。灰江田はサトシを送りに行っている。古いゲームが整然と並ぶ店内は、往事の玩具店を連想させた。
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