なんで私たちは、文章を書くんでしょう?
「ただ書きたいから……」
「自分の記憶にとどめたいから……」
「伝達手段として……」
「文章で楽しんでもらいたいから」
誰かが「そうそう!」って言ってくれたらうれしい。
おおぜいの人たちが、「わかる!」って言ってくれたら、もっとうれしい。
その中に好きな人がいて、
その人が「面白かった!」って言ってくれたら、
飛び上がるほどうれしい。
……でも、それって簡単なことじゃない。
だって現実には、フォロワーも少ないし、特別なネタを持っているわけじゃないし、人と違った専門知識があるわけでもないし。
だから、自分の考えや発見を伝えても自分の周囲の小さな世界にしか届かない。
そんなふうに思っているあなたに、私から伝えたいことがあります。
いったん「文章で的確に伝える」という〝技術的〟な考えをわきに置いてみて……
そして「文章で楽しんでもらう」という〝文芸的〟な目線で書いてみませんか。
あなたの思いや発見を、届けやすくするヒントが、文芸の世界にはたくさん集まっています。
「自分の言葉の見せ方」を工夫するだけで、すこしずつ、あなたの文章を読んでくれる人が増えるはず。
そして、文章を書くということが、いま以上に楽しくなるはず。
書けば書くほどもっと書きたくなってくる、いままでになかった文章教室に、あなたをご案内します。
この本で私は、あなたに「バズる文章の書き方」をお伝えするつもりです。
〝バズる〟というと、一般的には「(主にネットを中心に)爆発的に広まること」「たくさんの人に認知されること」という意味で使われますよね。
だから〝バズらせる〟というと、
「テクニックを駆使して、一時的に大きな拡散を狙う」
そんなイメージを持ってるんじゃないでしょうか。
でも、この本は「そういうことをするのが苦手」な人のためにあります。
この本の目的は、
1、(文章の終わりまで読もうかな)と思ってもらう。
2、(この人いいな)と思ってもらう。
3、(広めたいな)と思ってもらう。
そんな文章を書けるようになることです。
とはいえ、私の文章はプロ並みに上手いわけじゃありません。
話の脱線、日本語の間違い、誤字脱字だって多い。
持っている情報にものすごい価値があるわけでもない。
さらに打ち明けると、もともとSNSのフォロワーが多いわけでもなく、最新テクノロジーとかお金稼ぎとか、暮らしに有益な情報を持っているわけでもなく、かわいい猫を飼っていたり、気の利いたイラストが描けたりするわけでもありません。
私が普段書くのは、むしろ「小説の批評」という、あまりにもニッチな分野。
読者はぜったい少ない! と思われる分野です。
でもそんな分野でも、何度も「バズる」ことがあったんです。
はじめは、書店でアルバイトをしていたときにブログに書いた「おすすめ本の紹介記事」がバズりました。アクセスが集中してサーバーが落ち、最終的に「はてなブックマーク」で年間2位になりました。
それから、私の記事のアクセス数はちょっとずつ伸び続け、今ではベストセラー作家さんや、紅白に出るようなミュージシャン、有名女優さんといった、〝言葉のプロフェッショナル〟の方々が、私の記事を読んでくださるようになりました。
フォロワーも、特別有益な情報も持ち合わせていない私でも、インターネットで「バズる」ことがあるんです。 でも、うーん、なんでだろう? はじめのうちは自分でも不思議でした。 だって私はぶっちゃけ「バズる」ことを狙ったわけじゃない。
ていうか、「おすすめ本の紹介記事」が拡散されるなんて、そもそも期待すらしていない。
だけど「バズった」。
このギャップが生まれているのはなぜか? 出た結論はこれ。
「文章の内容や情報の価値について悩まずに、文章でみんなに楽しんでもらうことを優先していたから。
そして読んでくれた人に「いいなあ、この文章」って好感を持ってもらおうと工夫していたから」
なんじゃないかなって。
もちろん、バズることを目的として、バズらせる方法もあるでしょう。
いかにもバズりそうな、ちょっと過激なことを書くほうが、手っ取り早いと思われる方もいるかもしれません。
一般的には、〈フォロワー数を増やす〉〈影響力の高い人とつながる〉〈暮らしや仕事に役に立つ、レアな情報を伝える〉〈動物や子どものかわいいハプニングを、イラストや写真で伝える〉〈どこかに危険が迫っていることを知らせる〉〈政治やニュースや世の中の間違いを正す〉などが、バズらせる法則としてよく知られています。
でも、そうやってもしバズらせることができたとしても、中身をともなわなければ、一過性のもので終わりやすい。
一時的なブームで終わらせないためには、「みんなに好きになってもらえる文章」を書けるようになることが、一番の近道だと私は思ってます。
そもそも、私たちはなぜ文章を書くんでしょう。
SNS、ブログ、メール、報告書、プレゼン資料、手紙、企画書、レポートなど、形式はさまざま。
でも、すべてに共通するのは、自分の思いや考え、発見を知ってほしい。そして、できれば「面白いじゃん」って思ってもらいたい。
そのために、ユニークな体験をしたり、キャッチーなタイトルを考えたり、語彙を増やしたりするなど、日頃から努力している人もいるでしょう。
でも、私がなによりも書き手に必要だと信じているのは、シンプルに「どうすれば読み手に楽しんでもらえるか?」という視点です。
だから、人気の作家さんをはじめ、アイドルからインフルエンサーの文章にいたるまで、私はおそらく日本中の誰よりも「読んでて楽しい文章の法則」を研究してきました。
「読んでて楽しい文章の法則」って、言ってしまえば、今まで「文才」と呼ばれ、「あの人には文才がある」「私には文才がない」などと抽象的にとらえられてきたものです。
でもそれを、私は長年かけて、一つひとつがんばって〝法則〟として言語化してきたんです。
それをまとめたのが、この本です。
自分のことを、誰かにわかってもらいたい。知ってもらいたい。
多かれ少なかれ、きっと誰もがそう思っていますよね。
これからもっと、
あなたが思っていること、知っていること、聞いてほしいことを「文章」にして、
好きな人に、大切な人に、そしてまだ出会っていない誰かに、楽しんでもらいましょう。
ではさっそく、振り向いてもらうための「バズるつかみ」について解説していきます。
まずはこの方の文章から。
最初に意味不明な言葉を放り込む。
良心的 釣り モデル
「え? いまこのコ、なんか変なこと言わなかった?」
垂らされた釣り糸には、うっかり、ひっかかっちゃうもの。
映画でもドラマでも漫画でも、しょっぱなに「これはどういう意味……?」って気になる場面があると、ついついそのまま見続けてしまいます。
ほら、いきなり手がハサミのキャラクターがいるとか、突然丸くて青いロボットがひきだしから現れるとかすると、「どういうこっちゃねん?」と目が離せなくなる。
これ、文章でも一緒だと思うんです。最初になにか〝ひっかかり〟があると、どうしても続きを読みたくなるんですね!
ここでお手本にしたい文章は、女性に大人気の占い師・しいたけ.さんの、とある日のブログ。
年齢も素性も顔も不明なしいたけ.さんですが、どっこい、しいたけ.さんのブログを読むと「なんか親しみやすくて、信頼できるひとだなぁ……」となぜか心を許してしまうんです。
これって、すごいことじゃないですか?
勝手な持論を展開いたしますが、そもそも「占い」の解説って、ものすごく高い文章力が必要だと思うんです。
だって占いって、そもそも……ちょっとあやしいじゃないですか。
生まれた日によってあなたの運命が決まるなんて、そんな勝手に私の人生決まってたまるかよ、と反発するのがフツーです(すみません、でも私、わりと信じちゃうんですけど)。
でも、ならばなぜ女性誌に毎月「今月のあなたの運勢☆」が載ってるかっていえば、それはひとえに「占い師の文章がめちゃくちゃうまいから」だと思うのです……。〈あなたはいま大変な思いをしてるかもしれないけど、大丈夫、これから運気が上がりますよ〉と語りかければ、全国に存在する何万何十万という読み手が「あ、これ私に向けて書かれてる言葉かも……?」と感じさせてしまう。
(当たるわけないでしょ)と顔をしかめている人も、読めば(もしかしたら当たってるかも……)と無視できない。
そんな文章こそがリアル占い師の文章。しかも、雑誌などで有名な人気占い師のコラムなんて、超一流の文章なんです、きっと!
そんな占い師しいたけ.さんの単なる日常ブログにも、その文章力は遺憾なく発揮されております。
この文章の最大のポイントはどこでしょう。つい目を奪われる箇所はどこかということ。そうです、〝ポロリ〟です。
しいたけ.さんは、とある先生の合宿に参加してきました、と切り出し、そのまま合宿における出来事を話すのかと思いきや、突然登場させる言葉が〝ポロリ〟。
(え、なんのこと)と読者はドキッとする。だって「合宿でのポロリ」って……なんかこう、やらしい感じがしません!? 気になる。
そこでしいたけ.さんは、きちんと「ポロリとはなにかについて説明したいんですけど、」「……聞こえますか……今、ポロリという言葉が気になったそこのあなた、安心してください。ちゃんと今から説明しますから」というふうに、裏メッセージを読み手の心に直接呼びかけるようにして、こっそり伝えてくれます。
(なんのこと)と最初に戸惑わせておいて、「ちゃんと説明しますね」ってにこっと笑いかける。
読者が〝ポロリ〟でひっかかることをきちんと予測しているわけです。
「読み手がひっかかる」→「書き手がそのひっかかりを取る」このくり返しこそが、占いという、相手が特定できないようなメッセージを、読み手全員に「私に向かって語りかけてくれてる……?」と思わせる文章に仕立て上げるのでしょう。
すさまじいな。
こんなふうに、先にあえて〝刺激的かつ意味不明な言葉〟を放り込み、後から「実はこういうこと」とやさしく説明する流れを作ることで、読み手をするっと巻き込むことができます。
今回のポイント
「大事な部分を隠されると、見たくてたまらなくなる。」
※次回「星野源の未熟力 問いを共有する」は2019年10月13日(日曜日)更新予定です。
ひきつづきお楽しみください!