サンライズの日の出 ~ニュータイプのアニメ、『機動戦士ガンダム』①~

2010年代に入ってから、ウルトラシリーズ、仮面ライダー、ヤマト、ガンダム、あるいは「ベルばら」「ポーの一族」などが次々と40、50周年を迎えている。それらはみな、単に昔のものとしてあるだけでなく、現役のコンテンツとして新作が発表され、映像化、舞台化されている。逆算すれば分かるが、これらの大半は1970年代に始まった。 1960年に生まれ、アニメ、特撮ものを最初期からテレビで見ていた中川右介(作家、編集者)が「リアルタイムの記憶を基にして目撃譚」として描くサブカル勃興史。

「記憶をたどりながら書きますが、公にするからには、記憶にだけ頼り、間違ったことを書いてはいかないので、改めて調べ、事実確認をして書きます。歴史家的視点と、当時の少年視聴者・読者としての記憶とを融合させ、「読者・視聴者としてサブカル勃興期を体験した者が書く歴史」を提示したいと思います。(筆者)

時間軸の確認をすると、『マジンガーZ』の登場が一九七二年秋(テレビアニメは一二月三日)で、これによってスーパーロボット・ブームが到来した。永井豪原作・東映動画制作のアニメは『グレートマジンガー』『UFOロボ グレンダイザー』と作られ、七七年二月まで続いた。この直系とは別に七四年四月からは『ゲッターロボ』も始まり、『ゲッターロボG』に衣替えして七六年三月まで続いた。

 単にアニメがヒットしただけでなく、マジンガーZは「超合金」と銘打たれた玩具となり、「スーパーロボット」玩具は一大産業へと発展した。当然、永井豪と東映動画以外もこの分野に参入してくる。

 このジャンルを消費していたのは、いわゆる団塊ジュニア世代である。戦後の日本の年間出生数のピークは一九四九年の二七〇万人だった。いわゆる団塊の世代である。以後は減り続け、僕の生まれた一九六〇年は一六〇万人に下がっていた。しかし翌六一年の一五九万人で底を打ち、再び上昇する。その後は丙午の一九六六年を除けばずっと増え続け、一九七一年に二〇〇万人を突破し、七三年の二〇九万人が二度目のピークとなった。この七一年から七四年までに生まれた人びとが「団塊ジュニア」と呼ばれる。この世代が幼稚園時代に、スーパーロボット玩具の消費者となり、アニメを経済的に支えていた。

●虫プロからサンライズへ

『マジンガーZ』の成功を受けて、さまざまなロボットアニメが生まれた。そのひとつが一九七五年四月にスタートした『勇者ライディーン』だった。「制作」とクレジットされているのは東北新社だが、実際に制作したのは、後のサンライズである。

 東北新社は外国のテレビドラマや外国映画の日本語吹替版を制作する会社としてスタートした。「新社」とあるのだから、その前に「東北社」というのがあり、これはオペラのプロデュースをする会社として一九五九年に設立された。同社にいた植村伴次郎が日本語吹替の仕事に乗り出そうと提案したが、社長は反対した。そこで植村は東北社を辞めて、一九六一年に新たに株式会社東北新社を設立した。

 一九七〇年代は毎日のように外国映画が放映されており、日本語吹替のクレジットには「東北新社」とあったので、何をしている会社かはよく分からないが、僕でも社名を知っていた。その日本語吹替の会社がいつの間にかアニメに乗り出していたのだ。

 一九七二年に、東北新社が有限会社サンライズスタジオと共同出資して設立したのが株式会社創映社だった。サンライズスタジオは、一九七二年九月に虫プロのスタッフが創業したアニメ制作のスタジオだ。サンライズスタジオは制作部門、創映社は企画・営業部門と役割が分担された。創映社とサンライズスタジオの関係は、東京ムービーとAプロダクションの関係に似ていた。

 虫プロの倒産は七三年一一月だが、七二年の時点で、すでに人材流出が始まっていたわけだ。東北新社は外国映画や海外ドラマの吹替だけでなくアニメの音響も請け負っており、虫プロの仕事もしていた。その関係で、虫プロの元社員たちが始めた会社に出資し、創映社が設立されたのだ。富野由悠季は虫プロ出身だったが、サンライズ創立の際に声がかからなかった。

 サンライズ・創映社を立ち上げた人びとは、虫プロは手塚治虫を中心にした作家至上主義的な体制だったために経営危機に陥ったと認識していた。そこで虫プロを反面教師として、「健全経営」を何よりも優先させることにした。そのためにとった方針が、クリエイターは経営に参加しないということだった。富野が声をかけられなかったのは、クリエイターとみなされていたからだ。彼は以後もサンライズの社員でも経営者でもなく、外部のスタッフとして携わっていた。

 サンライズの経営方針にして制作方針は、企画段階からメーカーと組み、「玩具を売る」ためのアニメと割り切って制作することだ。テレビアニメは玩具メーカーがスポンサーになり、またキャラクター商品のメーカーとなる構造から逃れられない。

 制作サイドが世界観、キャラクターデザイン、基本ストーリーを決めた企画案がスポンサーの意向でズタズタにされることはよくあった。そこで、最初からメーカーを企画に参加させ、どんな玩具を作りたいのか、どんなロボットを何体出して、一回あたりの戦闘シーンは最低何分入れればいいのかといった要望を具体的に出させる。そしてそれさえクリアすれば、あとは自由に作っていいという仕組みを作ったのだ。

 サンライズ第四代社長だった吉井孝幸は、一九九七年に「サンライズはスポンサー主導という大原則があって、スポンサーの希望をある程度満たせば、自分たちの作りたいものが作れるんです。逆をいえば、作品の内容や込めるメッセージに関してはクリエイターの好きなようにやってもいい、という環境を勝ち取ってきたということなんです」と語っている(『サンライズアニメ大全史』収録のインタビュー)。

 その結果、「サンライズの作品は、クリエイターの作家性や主張を色濃く反映していなければならない」となった。

●サンライズが自社制作を始めるまで

サンライズが制作した最初のテレビアニメは『ハゼドン』だった。これはロボットアニメではなく、ハゼを擬人化したキャラクターが主人公の作品だった。制作は創映社で、放映は一九七二年一〇月五日から七三年三月二九日まで、フジテレビ系列で木曜夜七時の枠だった。後に確立される「サンライズらしさ」はなく、『サンライズアニメ大全史』でも「制作協力作品」という扱いになっている。

 次はSF『ゼロテスター』で、一九七三年一〇月から七四年一二月まで、フジテレビ系月曜夜七時の枠で六六回、放映された(第三九回からは『ゼロテスター 地球を守れ!』に改題)。西崎義展がプロデュースした虫プロ最後のアニメ、手塚治虫原作『ワンサくん』が放映されていた時間枠で、その後番組としてスタートした。この時点で虫プロは虫の息ながらまだ存在していた。

『ゼロテスター』もクレジットは「制作・創映社」となっており、これは東北新社主導の作品だった。東北新社の持つヒットコンテンツにイギリスのSF人形劇『サンダーバード』があった。『ゼロテスター』はこれと同じようなものをアニメでできないかというのが企画の出発点で、二一〇〇年を舞台にしたSFだった。

『ゼロテスター』は原作が鈴木良武で、監督は高橋良輔—二人とも虫プロ出身のクリエイターだ。「原作」と言ってもマンガや小説を書いたわけではなく、そのアニメの世界観を作ったという意味になる。この頃から「アニメの原作」の定義が変化してくる。

 サンライズの制作協力の第三作が『勇者ライディーン』だ。テレビ局はNET(現・テレビ朝日)で、創映社ではなく東北新社制作で金曜夜七時の枠で一九七五年四月から七六年三月まで五〇回にわたり放映された。原作は鈴木良武、監督は前半の第一話から第二六話が富野由悠季(当時は善幸)、後半の第二七話から第五〇話は長浜忠夫、キャラクターデザインは安彦良和である。

『勇者ライディーン』は『マジンガーZ』の成功を受けて作られたので、『ガンダム』へ発展するサンライズのロボットアニメの起点と位置づけていい。

『勇者ライディーン』は「永井豪の関係しないスーパーロボットもの」の最初でもある。『ライディーン』の成功により、テレビ局もメーカーも永井豪原作にこだわる必要はなくなった。玩具メーカーとアニメ制作プロダクション、そしてテレビ局と広告代理店は、スーパーロボ戦国時代に突入していった。

 一方、サンライズはロボットアニメだけを作っていたのではなかった。

 一九七五年から七七年にかけてのサンライズの制作協力作品としては、他に『ラ・セーヌの星』(制作・ユニマックス)、『わんぱく大昔クムクム』(制作・ITCジャパン)、『超電磁ロボ コン・バトラーV』(東映)、『恐竜探険隊ボーンフリー』(円谷プロ)、『ろぼっ子ビートン』(東北新社)、『超電磁マシーン ボルテスⅤ』(東映)などがあった。

 この間の一九七六年一一月にサンライズは東北新社との関係を絶って、株式会社創映社と有限会社サンライズスタジオを、株式会社日本サンライズへと改称・組織変更し、創映社はなくなった。

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