オフィスハック

映画館の最前列には注意しろ

「これぞ日本版キングスマン」「スカッとする!」「早く映像化して」Twitterで話題のスパイアクション小説『オフィスハック』より第2話「ミニマル製菓の社内調整」をリバイバル連載。(あらすじ)「うちの不祥事を世間様が知る前に社内調整せよ」東京丸の内の大企業T社。人事部直轄の特殊部署「四七ソ」に今日も新たな指令が下る。年の差バディ香田&奥野がスーツに身を包み、オフィスでクソ野郎共を撃ち殺す!

◆5◆

 都心は何年ぶりかで雪が降りそうなほど冷え込んでいた。

 おれは丸の内オフィスからの帰り道、吉野家で牛丼を食べてから、銀座駅のシネコンに立ち寄った。

 よく見たら上映時間までもうギリギリだ。カップル客だらけのロビーを抜けて、チケット発券機に向かう。休み時間にスマホの力で予約した。おれは最先端の文明を感じている。

 何ヶ月かに一度、こうして仕事帰りに話題の映画を見るのが、おれのささやかな楽しみの一つだ。しかもそれは一人でなくてはいけない。家族サービスで映画なんてまっぴらだ。

 男にはもっと孤独な時間が必要なんだ。

 だからおれは今回、スターウォーズを観るんだ。

 チケット番号はA-14。最前列だ。空いていたのは一番前のド真ん中の席だけだった。

 上映時刻をもう10分近く回ってる。新作映画の発表はもう終わり、例のスターウォーズの壮大なメインテーマが流れ始めるところだった。

 何とか間に合った。

 この曲を聴くと、ほんの束の間、おれの心は銀河の遠いところへと向かう。当然おれはオリジナル世代ではないんだが……。

「あ、すみません、すみません、失礼します」

 おれはSWAT突入部隊みたいな低姿勢でスクリーン前を歩き、ド真ん中のA-14席へと向かう。危なかった。本編映像が始まっていたら、めちゃくちゃ顰蹙ものだった。

「フゥーッ」

 コートを畳みながら座り、ジュースを手すりのドリンクホルダーにセットする。右に置けばいいのか左に置けばいいのかいつも困る。幸い両方開いていたので、おれは左側に置いた。

 左のA-13に座ってるのが、面倒臭そうな奴じゃなけりゃいいんだが。そう祈りながらシートに腰を下ろし、スクリーンに視線を向けた。でかい。明らかに近すぎる。初めて最前列に座ったが、案の定、全然落ち着かない。

 場内には例のメインテーマが流れ始めた。おれは気持ちを切り替えて、スターウォーズに意識を集中させようとした。

 その時、おれの中の本能が危険を告げた。つまり、違和感だ。この映画館に入ってから今まで、何か見過ごしていたことがある。おれはスクリーンを流れる銀河的なあらすじもそっちのけで、違和感の出所をさぐった。

 横を見た。右隣にいたのはスターウォーズトレーナーにスターウォーズキャップを被った、かなりガチっぽい外国人だった。どう見ても、おれには関係無い。

 左隣を見た。そこに座っていたのは高そうな革コートの男で、長い足を投げ出して組んでいた。確かにこいつは最前列でもないと窮屈だろうな。そいつはシュッとした茶色のサイドゴアブーツを履いていて、どこのブランドかは知らないがとにかく高そうだった。

 そして、どこかで見たような横顔だった。

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2018-04-19

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